2019年11月21日木曜日

『ホテル・ムンバイ』

監督/脚本/編集:アンソニー・マラス

2008年 ムンバイで起きた無差別同時多発テロ。そのターゲットのひとつだった五つ星のタージマハル・ホテルで、宿泊客らの救出に奮闘したホテルマン達のことを描いた映画。

ある人は「責任感についての映画だ」・・と。
プロフェッショナルとしての責任感、いやプロフェッショナルが責任感といってもいい。
何に責任を持つのか。
旅行業やホテルなら、何よりお客様の安全安心でしょう。

主演は、『スラムドッグ$ミリオネア』(2008) で青年ジャマール役、『ライオン〜25年目のただいま』で成人したサルー役を演じたデヴ・パラル。

彼は、監督に、デヴ・パラルありきでこの映画を作ると言わしめるほどの、天性の個性を持つ才能豊かな俳優さん。
「この俳優さんが出演を決めた作品なら・・・!」
 映画を選ぶときに、こういう基準もあろうかと思いますが、デヴ・パラルもそんな俳優さん。作品選びがよいです。そして監督のアンソニー・マラス氏も、私にとって
「この監督さんの作品なら・・・!」
ということになりそう(!)な予感です。
彼のバランス感覚、描写のセンス、弱すぎずくどすぎず、押しつけがましくなく、見る側に考えさせるメッセージをしかと発信する。

この映画で、テロリスト以外の出演者は皆主演と言うべきかも知れないくらい、ひとりひとりの描写がしっかりしていて、リアルでした。
ホテルを占拠し司令塔からの指示で動く青年たち=洗脳された若きジハード側の描写もリアル。

同じくテロを描いたC. イーストウッド監督の『15時17分、パリ行き』(2018)は、ヒロイズム的で、事件の原点となるテロに至るテロリスト側の描写が皆無なところが少々不満だったけれど、この映画は、テロリストたちの実体も短いながらも印象的に描いていて人間性のメッセージとなっています。

あの場に自分がいたら、どうするだろう?? 
旅行者として滞在していたら?
または旅行の御世話をする側だったら?
お客とホテル、両方の立場で考えさせられます。


あ〜〜それにしても、始終ドキドキ。
見応えのある映画でした!!
マハラジャホテル「ウマイド・バワン・パレス」(2014年の旅より)
映画のホテルムンバイもこんな雰囲気。
ちなみにホテル内のシーン、ロケ地は地方のマハラジャホテルだとか。

2019年11月16日土曜日

2019年11月11日月曜日

『大草原の小さな家』— 料理編7 ドリンク

料理編の最後に2、3、飲み物を取り上げます。

お父さんはウォールナットグローブに家を建てる時、井戸も掘りました。この水が、一家の生活を支えていました。

ドラマでは、専らコーヒーを飲んでいるような印象を受けます。でも本には、ケンブリックティーというのが載っていました。なんだかイギリスっぽくて洒落た名前なので何かと思ったら、その内容は、薄めたミルクに紅茶をちょこっと落としたもの。つまり子供用の薄〜いミルクティーです。だから時々は紅茶も飲んでいたのかもしれません。
ローラ達は「これを飲ませてもらうと、大人の仲間入りをした気分になった」そうです。


アメリカには、ボストン茶会事件*を経て、英国から独立を果たした歴史があります。そのためイギリスの象徴的飲み物である紅茶は敬遠され、コーヒーを多く飲むようになったといいます。
*イギリス本国から植民地側に一方的な税率で税金を課すので、とうとうぶち切れて、税の対象で象徴的だった茶箱を、積み荷から下ろさせずに海に捨てたという暴動事件。

でも、レモンの入ったアイスティーはアメリカ生まれなんですよね。

今、アメリカらしい飲み物と言えば、一番にコカ・コーラが浮かびます。
でもこれは1890年代になるまで登場しません。(コカ・コーラカンパニー設立は1892年で、南部ジョージア州アトランタにある製薬会社の開発です。)
ドラマ・シーズン1の19話(『大草原の小さな家』はシリーズ9まであり、各22-24話ある)「サーカスのおじさん」の中で、万病の薬といって重曹や重曹水を飲ませると、皆が治った治ったと元気になった(気がした)エピソードがありました。重曹水は、要するに炭酸水です。確かに胃は一瞬スカーッとしたことでしょう(笑)。
医師のベイカー先生以外はみんな騙されてしまうので、この頃は炭酸もまだ一般的ではなかったのだろうと思います。

この時代、爽やかなソフトドリンクといえば、レモネードジンジャーウォーター

ジンジャーウォーターは、大量に汗をかいたお父さんが、水をがぶ飲みしてもお腹が冷えないようにという薬膳的配慮で、生姜とお砂糖を加えた飲み物だったようです。
ちなみに生姜は、生が手に入らないのでドライのパウダーを使っていました。
炭酸飲料が普及してくると、これが「ジンジャーエール」に取って代わられたのでしょう。「ジンジャービール」なんてのもあるのですが、「エール(ale)」は本来ビールを指す言葉ですから同じ意味です。(※ジンジャーエールはノンアルコールです。)

もうひとつ、エッグノッグ(Eggnog) をご紹介しておきます。
一言で言うなら、生クリームでつくった濃いミルクセーキ。よくラム酒やブランデー(またはウイスキー)、そしてナツメグが加えられます。
ローラの家(インガルス家ではなく、ローラが結婚してから築いたワイルダー家)のレシピは、ナツメグがたっぷりでノンアルコールでしたが、通常家庭でつくったものにはお酒がしっかり入っています。なので飲み口の良さから調子にのってお代わりしていると、酔っ払ってしまいます(経験者)。

私の知るアメリカでは、エッグノッグは、クリスマスのときにだけ作られていましたが、ローラの本には、クリスマスに限らず病気や身体の弱っているときにアルコールを加えて飲んでいたとあります。ちょっと日本の卵酒と似ています。
卵酒も湯煎で丁寧に作ると、とろ〜り濃度がでて似たような仕上がりになります。
スパイスの中でも温熱効果が一際高いナツメグとお酒を加えれば、更に身体が温まることでしょう。卵とミルクと砂糖入りで栄養価も高い。確かにエッグノッグは養生食ですね!(まあ、アルコール入りのところは臨機応変に・・ですが(^^;))

『小さな家の料理の本』で紹介されているのは、ローラ達が食べてきたものの、ほんの一部に過ぎませんが、そこかしこに生活の記録が散りばめられています。
こうした本も、時を得て、日本の日記文学に通じる貴重な資料となっていくかもしれません?

ローラの生きた時代、ビタミン、ミネラル云々だの「一日何品目」、「炭水化物は減らして」だのという考え方など有るはずもなく、手に入るものでお腹を満たしていた暮らしでした。
それでも、ローラのお母さんキャロラインは84歳、ローラは90歳まで生き抜いています。
一方お父さんの方は、66歳とちょっと早死。
腰まで水に浸かって幌馬車を引きながら川を渡ったり、吹雪の中で狩りをしたりと、無理を押して家族のために大奮闘し続けたのが影響したのでしょうか。
ドラマ上でメアリーは後に病気で失明し、盲学校の先生になるという展開だったと記憶しています。ドラマと原作は少し内容が異なりますが、メアリーも、早死にで、63歳で没しています。

「食の健康」「薬膳的食べ方」等と、選択的に食べることが語られる現代は、恵まれた時代なのだとしみじみ思います。でも、ローラ達が今の私達の食事情を知ったら「“食の安全” を心配しなくてはいけないなんて、大変ね!」と、思うかもしれません。

命と向き合い、生かされていることを実感できる暮らし。そして、食べ物に感謝しながら皆で食卓を囲む暮らし。料理そのものよりも、そんな暮らしの有り様が『大草原の小さな家』をより魅力的にしているのだと思う次第。

<あと1本書きますw>


2019年11月1日金曜日

『大草原の小さな家』— 料理編6 アップルパイ

インガルス家がウォールナットグローブの町に落ち着きキャンプのような生活から一転、(30キロ圏内というアバウトさではあるけど一応)鉄道もあり、教会も学校も、(唯一だけど)オルソンさんのよろず屋もあって、医師(ベイカー先生)も居る暮らしへ。

安心の暮らしになったようにも思えるけれど、食用の肉はやっぱりお父さんが狩りをして獲ってくるし、木の実を採取したり、家畜の世話をしたり、ローラたちも、多くの時間を食事の為のお手伝いに費やさなければなりませんでした。
ローラの自叙伝には、食事の喜びと沢山の料理の話が出てきます。それは、食べる為に働く時間が多かったことの証しでもあります。

インガルス家にオーブンが来て、元々お料理上手で働き者のキャロラインのレパートリーは益々広がったことでしょう!
パンはダッチオーブンでも焼けるけど、パイはやっぱりオーブンでなくては。

お肉のパイもいろいろ作っていたようです。
パイはちょっとスペシャルなお料理。
お母さんがオーブンで焼いた季節折々のパイで、ローラ達は季節の収獲を楽しんでいたのでした。

『小さな家の料理の本』には、先に紹介した「ビネガーパイ」以外にもいろいろなパイが掲載されています。

   カスタードパイ
   パンプキンパイ
   干しリンゴと干しぶどうのパイ
   ミンスパイ*
   ハックベリーパイ*
   アップルパイ

*“ハックベリー”とは、多種ある野生のブルーベリーの中でも地元で採れる土着品種を指す言葉のようです。

*ミンスパイとは、クズ肉を叩いたミンチと刻んだドライフルーツを合わせて増量にしたフィリングのパイのこと。


さて、やっとアップルパイ談です。

アップルパイは「二つ折りのパイ」「アップルパイ」の2種が掲載されています。
前者はバターを贅沢に使ってフランス菓子にあるような層を作る上等バージョンですが、殆どのパイは、手軽な練り込み生地で作られています。

ドラマでは、ウォールナットグローブの町のお祭りでパイコンテストが行われることになり、キャロラインも出品するという回がありました。
家族は一足先にお祭り会場に出掛けますが、キャロラインは残ってパイを仕上げ、持っていく仕度をしていました。出掛ける間際、ちょっと前に農機具で怪我をした足が疼くので、戸口にパイを置いて一旦屋内にもどり、傷を消毒します。
が、時既に遅し。キャロラインは、破傷風菌に冒されていて、高熱を発しそのまま倒れてしまうのです。
パイコンテストのお話だ ♪ と思って、わくわくしながら見ていたのに、思わぬ展開でドキドキしたことを今もよく覚えています。

なんとかキャロラインは九死に一生を得ますが、あのパイはどうなったのでしょう??
確かあの時のパイはアップルパイだったと記憶しています。

ドラマの最後までお目見えすることの無かったキャロラインのアップルパイ。
アーミッシュのお菓子の本に載っているアップルパイを眺めては、こんなパイだったかな〜??なんて、今でも時々思うのです。


写真1:バター多めの練り込み生地でできたアップルパイ
(写真:手持ちのアーミッシュの本から借用)
古今アップルパイをご紹介・・・といきたかったけれど、「古」といってもローラの時代から1世紀しか経ていないアメリカンアップルパイ。受け継がれる味もさほど代を重ねておらず、変わっていないかな??

ですが、ローラの頃にはこんなパイは無かったかも(!)。[写真2]

写真2:More than Just Ice Creamのアップルパイ
手持ちの写真が無いので、ネットから引っ張って来た画像です。悪しからずm(_ _)m
これは、私が暮らしたフィラデルフィアで、Philly's taste、Best of Philly10 などと地元紙にしばしば登場していた More than Just Ice Creamというアイスクリームショップのアップルパイです。

イートインすると、こんな感じに[写真下]。
写真3:熱々のアップルパイにたっぷりアイスクリームというのが定番の食べ方
アメリカの人って、ホントにアイスクリームがだいすき

もぉ〜〜〜、パイだけでお腹いっぱい・・・!
最初、このパイに挑むには「パイで食事代わり」とする覚悟が必要でしたが、意外にもフィリングのリンゴはシナモン効かせて砂糖控え目。
アイスクリームを控えれば、結構イケちゃうのであります。
かくして、私にとっての「アメリカンアップルパイ」はコレ(!)と相成りました。

「アメリカのおもてなしとは “お腹をいっぱいにすること” なのだな・・・」とも、ここのアップルパイを通して、学習した次第。

いつかもう一度訪れてみたいと漠然と思っていましたが、2018年秋、43年続いたこのお店は、惜しまれつつも閉店となっていました・涙。
いつ行ってもお店の方が店先で沢山のリンゴの皮むきをしていた情景が、懐かしく思い出されます。

ちなみに『小さな家の料理の本』には、アイスクリームのレシピも出てきますが、ローラが結婚してワイルダーになってからのもののようでした。

* * * * *

おまけ

写真4:お店のサイトより借用。https://theblueowlbakery.com

これは、More than Just Ice Creamを検索中に見つけたミシガン州のベーカリーThe Blue Owl Bakeryの Levee-High-Applepie。(堤防アップルパイ!? )

お菓子≒Sweets は、アメリカに於いて、とても食事に近い立ち位置だと思います。

それにしても、やっぱりパイ生地とリンゴのバランスって大事だと思うのですけれども・・ねぇ)))。

<つづく>