2022年7月23日土曜日

芥子漬け


 

7月教室の一品だった芥子漬け。

  お鼻、ツーーーン
  お目々、ヒリヒリ

この「ツーン」が苦手な方、10人に1人ぐらいの割合でいらっしゃるようにお見受けします。
私はこのツーンに挑みながら刺激を頂くのが大好きで、いつも芥子&山葵は増量ぎみ。
芥子の揮発成分を鼻腔に入れないよう、スー、スー、スー・・と小刻みに鼻から息を吸いながらいただきます。芥子や山葵が苦手な方は、この呼吸が苦手なんでしょうねえ、きっと。
芥子の「ツーン」は、配糖体から生じるアリルイソチオシアネートという物質によるものらしく、ワサビや大根にも含まれる成分で、殺菌力にも通じる。

香る美味しさ。

料理の美味しさの半分は嗅覚が担っていると思うのですが、芥子漬けの美味しさは、この常識を覆す食べ方で尚人気を博している!? 芥子、タダモノではないゾ。

そこで、ちょっと芥子のお話を。

芥子には、黒、白(黄)、オリエンタルの三種があるとされています(SB創業者 山崎峰三郎氏の著書による)が、黒白2種として扱われていることが多いです。ホールスパイスを売る店頭でも白(黄)、茶色の2種類だけ。アブラナ科のこの植物は、古くから世界各地で活用されているので、もう原産国がどこだか分からなくなってしまっていますが、恐らく東地中海沿岸辺りではと言われています。
"マスタード(Mustard) "としては、白いディジョンマスタードかソーセージに添えられる茶色の粒マスタード。
南インドでは、スタータースパイスとしてブラウンマスタードシードをクミンと一緒に熱した油に加えてパチパチ弾けさせて香りを引き出すのがカレーの基本。
日本の練り芥子には、ウコン(ターメリック)が加えてあるから黄色いけれど、本来はディジョンマスタード同様もっと白っぽいもので、これが本来は「オリエンタル」種といわれているタイプのもののようです。

唐代にインドへ旅した玄奘(三蔵法師/AD600~664)の記した『唐西域記』には、芥子には神力が宿るといった記述があるそうです。中国にはインドから伝わり、インドのそれもひょっとしたら地中海沿岸あたりから広がったものかも(またその逆かも?)しれません。
魏晋南北朝の6世紀の農業書『斉民要術』に芥子菜のことが「胡芥」「蜀芥」と記載されていましたから、唐代以前には西部ですでに栽培されていたようです。
そしてその芥子が、7世紀には遣唐使によって日本に仏教と共に伝わり、加持祈祷に用いられるようになっています。
源氏物語(10-11世紀初頭・平安中期に書かれています)の「葵の巻」と「手習の巻」にも、芥子焼きのことが語られています。
(光源氏の正妻・葵の上を悩ませていた生き霊を調伏するための加持祈祷で炊いた芥子の香りが、六条御息所の衣に染みついて消えなかったとあります。)

古の人々が芥子の「ツーン」を楽しんでいたかどうかは不明ですが、何やら世界中の人々のDNAに組み込まれていそうな普及ぶり。あらゆるお料理に幅広く使えるキャパも、古句から親しまれてきたから故といえそうです。

芥子。不思議な魅力を秘めた代物です♪


あ、芥子漬けは・・・いっぺんに沢山仕込むと危険ですよ。

*芥子(白芥子)
 性味/帰経:温・辛/肺 
 化痰類 温肺袪寒(理気散結、寒性の席、喘息、稀息 稀痰など)
     通経止痛(関節疼痛・麻痺・陰痰) 食欲不振に。