先日テレビで『チャーリーとチョコレート工場』(2005/ジョニー・デップ主演)を見ました。
原作はロアルド・ダール(英)の児童小説 “Charlie and the Chocolate Factory”(1964年/邦題『チョコレート工場の秘密』)。
本作品は、1971年に一度『夢のチョコレート工場』というタイトルで、映画化されています。(脚本は、原作者ロアルド・ダールが手掛けている)どちらも見そびれていたのでやっと観られたという訳なのですが、見終わって、この物語は最初に本で読みたかった(!)と思ったのでした。映画のインパクトが強すぎて。。。
独特なファンタジー。
映画2005年バージョンでは、CGで複製されたウンパルンパ(という小人人種)やセットが現代の技術でしっかりに作り込まれていて、色調等々、これを一度見てしまうと、独自の想像が描ききれなくなってしまう気がします。もう、ウンパルンパはあの顔しかうかばないし、ウォンカはジョニー・デップの美しい顔しか浮かばないといった状況に。
もし未だご覧になっていない方は、まずは活字でアプローチして、立体的な想像を膨らませてみることを、是非オススメします。
ここでちょっとストーリーを。
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外界から隔離された巨大なチョコレート工場がある大きな町の片隅で、貧乏な暮らしを余儀なくされている少年チャーリーとその一家。ある日、チョコレート工場の工場主ウィリー・ウォンカが、自社のチョコレートの中にゴールデンチケットを5枚封入して出荷、チケットを引き当てた子供を工場見学に招待すると発表する。
そして、工場見学の日。チケットを引き当てたチャーリーら五人の少年少女と保護者の前で、チョコレート工場の門が開く。チョコレート工場の中に広がっていたのは、ウォンカが作り上げた奇想天外な世界だった。(以上、ウィキペディアから抜粋)
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チョコレートの製造で大成功をおさめているウィリー・ウォンカ。
この物語は、彼の工場の「奇想天外」ぶりが醍醐味でもあるのですが、チャーリーと工場見学を共にすることになる親子の価値観の歪さが、工場の世界感となんだかシンクロしているのです。そしてその親子とウォンカとの噛み会わない掛け合いもまた、独特の世界感を醸し出しています。
どこかダークな世界感に、グリム童話みたく、シビアなメッセージの含みも感じられます。
チョコレート職人目指して歯医者だった実家を飛び出したウォンカが、カカオを求めてジャングルを彷徨い土着民のウンパルンパに出会うところなど、新大陸の産物を求めて飛び出す大航海時代の冒険家さながらだし、ウンパルンパはまるでアフリカや南米の奴隷として連れて来られた黒人と重なります。そしてその働き方は、産業革命を彷彿とさせる機械化された世界のそれ。はたして作家には、大航海時代や産業革命を暗示させる意図があったのでしょうか?
そしてまた、そんなところがなんともイギリスの童話らしいなと思った次第。
実は丁度この映画をTVで見たとき、『チョコレートの世界史』(武田尚子著/中公新書)を読んでいました。
「世界史」というのだから、カカオが原産地からどのような経緯で世界中に広がり、世界を魅了する嗜好品になっていったのかが語られているのかと期待していたら、本の中の「世界」は、後半専らイギリスにフォーカスされていて、正直ちょっと物足りない感じ。しかしながら一方で、チョコレートが世界に広がるプロセスには、イギリスの動きがけっこう大事だったりするのでした。
①でふれたように、カトリックの国々とプロテスタントの国々では、チョコレートの普及していく様相が少々異なるのです。
イギリスでいち早くチョコレート工場を建設したのは、クエーカー教徒だったというのも興味深いところです。
食文化のアートとして花開いたフランス文化圏とは異なり、産業としてのチョコレート製造業が発展をみたイギリス。戦場での栄養食としての発想もあったことも興味深いところでした。
原作が書かれたのは、作者が第二次世界大戦から辛うじて生還してから。
社会を俯瞰する感じで辛口の風刺もチラつくファンタジーは、そんな作者の立ち位置に因るところがあるのかもしれません。
そうそう、ウォンカの板チョコを見ていると、一世を風靡したハーシー(Hershey)チョコレートを思い出しました。創業者のミルトン・ハーシーの曾祖父はクエーカー教徒で、迫害を逃れてペンシルベニアに渡ってきた移民です。ペンシルベニアは、イギリスのクエーカー教徒ウイリアム・ペンが創設した州で、宗教の自由が約束されていました。父親もミルトン自身も敬虔な信者とは言えないものの、クエーカーの家族と暮らし、そのコミュニティーには接点を持っていたようです。後に事業を興し、チョコレートの知識を得るためイギリスを旅行した際、ハーシーはクエーカー系チョコレートファクトリーの社会改革活動に出会っていたようです。イギリスのキャドバリー(Cadbury)社にならい、理想郷チョコレート会社の城下町を建設しようという発想に、ビビビときたのではないでしょうか。様々な経験を経て、ミルトンは、アメリカのチョコレート開拓者になっていくのでした。
さて、物語のウォンカかクエーカー教徒とはとても考えられませんが『チャーリーとチョコレート工場』は。そんな時代を知る作者の作品ということです。
世界の食文化は16世紀から激変しました。
新大陸からのとうもろこしにジャガイモ、ピーマン、トマトに唐辛子・・・・コーヒー、お茶、そして、スウィーツ界を一世風靡したカカオーーーだったのですね!
*クエーカー:キリスト教プロテスタントの一派。正式にはフレンド派。17世紀半ばに、英国でジョージ=フォックスが創始、まもなく米国に広まった。キリストへの信仰により神の力が人のうちに働くとし、霊的体験を重んじ、教会の制度化・儀式化に反対。絶対的平和主義を主張し、両世界大戦時に多数の良心的戦争反対者を生んだ。基督友会。
『武士道』の著者であり五千円札の顔となった新渡戸稲造もクエーカーで、ペンシルバニア州フィラデルフィアでアメリカ人女性メアリーと結婚している。