2016年7月31日日曜日

暑中お見舞い申し上げます



夏はスパイス! 夏はカレー!!
・・・と、思っている方、沢山いらっしゃると思います。

スパイスはその殆どが植物の種。命を繋ぐ小さな粒。その分、秘めたパワーが凝縮しているのでしょう。なかなかのインパクト。小さな粒、性質の強いものが多いので、お薬としても密かに活躍しています。
昨今、スパイスがふんだんに使われるカレーが「薬膳」と呼ばれることもありますが、強いもの程、取り扱い注意。
季節折々のスパイスとの上手なお付き合いも織り交ぜながら、これからも教室を展開していきます。

この夏も、どうかお元気でお過ごし下さい。


2016年7月30日土曜日

山椒



土用の丑の日は、鰻。
ついでにしじみの赤だしも付けたい。
タコと胡瓜の膾が付けば、鬼に金棒。

そして、鰻には・・・香り高い山椒が・・・欲しい(!)。

京都のぢんとらで、五月の終わりに買った山椒を、ゴリゴリすり潰して鰻に。

夏バテしない気がする香りです。



2016年7月13日水曜日

『バベットの晩餐会』(2)料理編

晩餐会の料理は、食材の買い付けからはじまります。
パリで手配し、運び込まれた「食材」には、生きたままの鶉や、牛の頭、鶏のもみじ(足先)、キャビアにチーズ、ワイン等々・・・。そして、極めつけが、生きたままのウミガメ(!)。今ではワシントン条約で取引禁止になっていますが、この頃はまだ「食材」でもあったのですね(!)。
ルター派の村人たちには(でなくても?)、度肝を抜かれる食材ばかりで、バベットの料理の仕込みが「魔女の仕業」に見えたのも無理からぬことです。

さて、晩餐会の料理内容は下記のとおり。

   ○ウミガメのスープ

   ○キャビアのドミドフ風 ブリニ添え

   ○鶉のパイ詰め石棺風 フォアグラ詰め トリュフソース

   ○季節のサラダ

   ○チーズの盛り合わせ

   ○ラム酒風味のサヴァラン フルーツのコンフィ添え

   ○フルーツの盛り合わせ

   ○コーヒー


 実は意外にシンプル。

でも、火元は薪木が燃料のオーブン、調理器具も殆どが木と陶器、食材は、「生き物」をシメるところから、水も井戸水を汲んで瓶に溜め込んで利用・・・といったあの当時の台所事情を考えると、レストランと同じ料理を、ひとりで作るのですから、大変な労力と時間が使われたことは想像に難くないところです。
一連の超アナログな台所事情を観るのも、密かに面白いポイントかもしれません。
調理道具としての陶器や匙等々、これぞホンモノの「民芸」です。

そうそう、晩餐会のお料理に使われる食器は、バベットがパリから買ってきたものとお見受けしました。
姉妹の家には、グレイの陶器のお皿が壁に掛かっています(ティータイムなどのシーンで出てきますので、ご留意ください)が、それではなく、絵柄のついた磁器が使われていました。


改めて、映画を観た後で、30年前には気に留めなかったところがいろいろ見つかりました。

バベットはシェフでしたので、自らワインを選ぶことは無かったはずですが、彼女はお酒もいろいろ買い付けてきています。

晩餐会で出されたアルコールは。。。。

  食前酒 ○アモンティリャード(ミディアムドライのシェリー酒)

  最初のお酒 ○1860年のブーブクリコ(シャンパン)

  ワイン ○1845年のクロ・ブジョ(ブルゴーニュの赤ワイン) 

  食後酒 ○ハイン フィーヌ・シャンパーニュ(コニャック・ブランデー)

シェリー酒の年代も知りたいところです。

ん!? 1860年のシャンパーニュを1886年に・・・!??
そのシャンパン、もう枯れてますがな。シャンパンは、そんなに長期保存出来ないはずです。どんなにガンバッテも、美味しくいただけるのは5年〜10年までではないかと・・・。クロ・ブジョは、41年モノ。これもヘタすると枯れていそうなくらいのビンテージですがな。ちょっとやり過ぎな気もしますが、19世紀最高のヴィンテージとかなんとか(?)、"最高級"を表現する為の何らかのこだわりがあったのでしょうか??

・・・とまあ、こんな具合にお酒については、少々突っ込みどころがアリマス。

そういうところからしても、この映画はやっぱり料理がテーマではないと思うのです。

バベットの粋なお金の使い方、運命と決断。世の盛衰を目の当たりにしてきたバベットだからこそ出来たことかも知れません。そして何より「芸術は人々の心を解き放つ」ということを最もシンプルに可視化したラストの食事シーン。
こんなところが、この映画の味わいかと思いますが、いかがでしょうか?





2016年7月12日火曜日

『バベットの晩餐会』 (1)

Babette's Feast

http://mermaidfilms.co.jp/babettes/

1987年公開の映画が、デジタル・リマスター版で、八丁座で公開です(7/16〜)♪


晩餐会のシーンが映画の3分の1。だからお料理がテーマのような印象ですが、俯瞰してみると、ちょっと違った印象に。
30年前にご覧になった方なら今回は是非、その時代背景と人物のバックグラウンドに思いを巡らせ、この映画の奥行きもお楽しみいただきたいところです。

映画の舞台は、デンマーク・ユトランド半島海辺の小さな集落。この集落がルター派の信者であること、実は大切なポイントです。1871年、この集落に一通の紹介状を持ってパリから逃亡してきたバベットが牧師の姉妹の家を訪れ、女中として暮らすことになります。
バベットが、何から「逃亡」したのかもポイント。

映画では、その35年前1836年のことが回想的に描かれます。
小さな集落にきた一人目のフランス人オペラ歌手。牧師が「あなたはカトリックか?」と尋ねるシーンがあります。そして二人目のフランス人がバベット。
映画のクライマックスとなる晩餐は、それから14年後(1885年)。ヨーロッパの端っこで坦々と質素ながら平穏に暮らしてきたバベットに、なんとパリの宝くじが当たります。バベットは、そのお金を使って、老いて気むずかしくなってきた村人達の為に晩餐会のお料理を振るまうことに・・・。

時代は、フランス革命(1789年)から約100年後。フランスでは革命以降もずーっと王政と人民による政治との興亡が続いた時代です。(100年掛かりで成し遂げた革命といえるのかもしれませんが…。)
フランス革命後の革命軍自治体による政治が上手くいかず、ナポレオンが出て、それも10年で失脚。再び王政(ルイ18世)が復古し、やがて七月革命(1830年)でブルジョワ王政・・・そんな頃、オペラ歌手パパン、ストックホルム公演後、村で療養(1836年)。牧師の姉妹と出会っています。

その後、二月革命、第二共和制、ヨーロッパの民族独立運動、自由主義が高揚、ナポレオン3世の第二帝政時代に入ります。(1852〜1872年)

この頃のフランスは・・・

    英仏通商協定締結(1860年)  民主主義と専制主義の同居状態。
   ---ジョルジュ・オスマンによるパリ改造 大区画整備が始まります。
   ---フランスの産業革命
   ---1862年  ビクトル・ユーゴーが『レ・ミゼラブル』を書き上げます。
   ---1867年 深刻な恐慌 ストライキ、賃金闘争多発→反政府運動へ発展 
        ひどい食糧不足
   ---1870年 7月 普仏戦争
   ---1871年 3月 パリ・コミューン 
        =パリ市民と労働者の蜂起により樹立した社会主義革命政権。
        バベット、パリ・コミューンに加わる。
   ---1871 年 5月 プロイセン軍に正式に降伏。     
        ---9月 フランスの主要都市でコミューンが結成されるが
                                 短期間で鎮圧される。
    1871 年 バベット、パリからデンマークへ逃亡。姉妹の家を訪ねる。
   ---1872年    第三共和制
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 1886年、晩餐会。 


激動の時代の、華々しいフランス・パリと、デンマークの寒村、カトリックとプロテスタントの対比も興味深い。

バベットは、王侯貴族や高級軍人、芸術家たちを顧客にもつパリの高級レストラン、カフェ・アングレの料理長でした。一世を風靡したオペラ歌手のパパンやスウェーデン将軍には、ここで出会っているのです。

でもその後、彼女はパリ・コミューンの一員として市民側で戦ったということが、冒頭のパパンからの手紙にある「夫も子供も殺され、彼女も処刑されそうになった」というところから分かります。
『レ・ミゼラブル』にあるような状況下で「ラ・マルセイエーズ」を高らかに歌いながら、革命側に加わっていたのかも知れません。

この映画のメッセージとは何なのか・・・を考えるのはきっと野暮。
強いて言うなら「C'est  La Vie. /  セ・ラ・ヴィ」〜「これも人生」ということか。
ローレンス・レーヴェンイェルム将軍、アシーユ・パパンと姉妹の運命のいたずら。バベットの数奇な人生。
生きていることは矛盾だらけで、判断の善し悪し、幸不幸では語りきれない。でも、バベットは、この先もこの村で生きることを選んだ。

最後の、バベットのセリフ、「貧しい芸術家などいません」。
これはこの映画監督自身の声のような気もしてきます。
バベットは、料理人である自らを芸術家と評しています。芸術家は、作品によって人の心を解き放つ。それができる限り「豊か」であると。村人たちの質素な暮らしぶりの中にも、それぞれに異なる豊かさの有り様を見出していたのかもしれません。

クライマックスで描かれるのは、人々が美味しい料理とお酒を頂くに従って、心解き放たれていく様子。ルター派のストイックな教えを反芻しながらも、ご馳走にどうしようもなく動物的本能をくすぐられていく。
和を保ち心穏やかに暮らすための教義に溢れた信仰も、ストイックなだけでは上手くいかない。本能が満たされることも大切。こちらも全く沢山の矛盾を抱えておりますねえ)))。

晩餐会で出たお料理とお酒のお話は、次回に♪





2016年7月5日火曜日

『ノーマ、世界を変える料理』


  写真:http://www.fashionsnap.com/news/2016-02-08/noma-movie/gallery/より


『ノーマ、世界を変える料理』(於・シネツイン)観に行きました。

ノーマという北欧デンマーク・コペンハーゲンにあるレストランのドキュメンタリー映画。
多くの人の最初のインパクトは「北欧が世界一!?」ではないかと思います。
私も然り。だって、北国のイメージは・・・長い冬・・白夜・・・& 保存食?
しかも、北欧の食材だけで構成させることをテーマに掲げているレストランだという。

正直言うと、映画のチラシやポスターにあるお料理の画像から「私の好みじゃないかな」というのが第一印象だったのでアリマス。
工作のようなお料理。温かいの? 美味しいの?? 食べにくそう。
ハーブやお花をそこかしこにあしらったプレートには、和食の皿に取り入れられた季節を演出するための切り取られた自然とは異質のモノを感じましたし、★星の格下げに自殺するシェフまで出る現代の料理界の頂点を目指すお話でしょ・・・と。

カリスマシェフ、レネ・レゼビ。

   野心家かな? 
   前衛的な趣向を持つ料理人かな??
   ミシュランの世界、ちょっと覗いて見るか。

そんな気持ちで臨んだ映画鑑賞でした。

ピンセットで盛りつけされるエクスペリメンタルな料理シーンが続きます。

   お料理もここまできたのね。
   こうやってみると、日本の盛り箸って優れモノね。

ナレーション代わりに、4年掛かりの取材から引き出したシェフの名言が続きます。

   "味は場所と密接に結びついている"
   "節度ある量を消費する”
   ”美味しいと感じるのは、自分と繋がることが出来るものがあるからだ”

レネは、マケドニア人(旧ユーゴスラビア構成のひとつ)ムスリムの移民です。
これはなかなかの逆境なのでは??とも思いましたが、村の人達や家族の中での垣根のない温もりの中で生きてきた彼のルーツであり、風土や文化の違いも、身を持って知っているというということかもしれません。異文化に過剰反応する人々や差別はものともしない逞しさは、そんなところに支えられているような。いや、それらが彼の負けん気で冒険的精神を培ってきたのかも知れません。

食材への思い、シェフの理念がf-word (f○○k'in...という言葉)と共に雄弁に語られます。
なかなかヤンチャなシェフであります。

その勝気さヤンチャぶりは、スタッフを鼓舞するミシュラン授賞式でのスピーチに凝縮されています。

レネの口から発せられた言葉。
   "micro seasons"
   "perfect storm"

北欧バージョンの二十四節気七十二候をレネがロックに表現する!

・・・なーんちゃって。

perfect storm は、オバマさんのスピーチにも使われた言葉ですが、決して大きくはない事象が重なり重篤な状況になることを象徴する言葉で、perfectが逆説的な意味で使われています。

連打される言葉の数々の中にも、レネの勝気さと繊細さが感じ取れます。

自然も民族色も豊かなマケドニアから、厳しさ半端無い北欧に移り来たレネの、更なる挑戦状のようにも見えまする。

   "三つ星よりも三人の子供に恵まれたことの方が、僕には価値がある"

   “世界一を投票で選ぶということ自体、ナンセンス。世界一の色を決めるのと同じ事だ。今年の世界一は、黄色です! 今年は赤が多数票を獲得!といっているのと同じこと。"

なかなか上手いことおっしゃいます。


このレベルの競争世界については全く疎い私のつたない感想だけではあまりに申し訳ないので、最後に
業界の要人によるコメントで気に入ったものを少し抜粋して終わりにします。


   "パンクなスピリッツで野趣と革新とエレガントが同居する料理を創作するレネ・レゼピ。" - - - - 南馬越一義(BEAMS創造研究所)

    "Artの許されぬことは、すでにあるものの繰り返し、と「模倣」。 命育むCuisineの許されぬことは「リスク」。" - - - - 土井善晴(料理研究家)



それにしても、海と空が一体となった嵐の映像、北欧の自然、綺麗だったなー)))。


シネツインでは、間もなく『バベットの晩餐』(1987年)も上映です。
19世紀のデンマーク、油とランド半島の物語。
レネのレストランがあるのは150年前はこんなところだった・・・!と思って見て頂くと、一層感慨深いものがあるかもしれません。