2017年6月26日月曜日

恒例の特製辣油


今回は、小茴香、月桂樹の葉(ローリエ)増量です。

辣油はスパイスをいろいろ加えて作りますが、基本は唐辛子オイル。
唐辛子の赤が油に溶けやすい成分なので、オイルに溶かして使うようになったようです。
中国北部では、唐辛子オイルのニュアンスで使われることが多いそうですが、南方の潮州辺りでは蒸した魚介などにかけるソースのような辣油が人気。複数のスパイスの他にも、胡麻や揚げ葱、ニンニク、塩などが加わり、味付きのものもあります。南方の料理に合わせてソース化した「潮州辣油」は、きっと「食べる辣油」の原点です。

一時辣油ブームで、ラー油を御飯に掛けて食べるのが流行りましたが、ブームの火付け役、ペンギン食堂の「石垣ラー油」は、沖縄の島胡椒とウコン(ターメリック)、黒糖入りで、ニンニクを効かせ、白胡麻や黒豆、黒砂糖も入ってほのかに甘辛い感じ。御飯との相性の良さで人気でした。当時は、ラー油で「太った・・!」という声をよく聞かれたもの。そりゃ〜、やっぱり油ですもの、然もありなん(笑)。これも潮州タイプの辣油です。

これを生み出したご夫婦の物語は映画にまでなっているらしいので(スミマセン、観ていません)その辺のことはココでは省略しますが、辺銀暁峰さん(帰化名)は、西安出身とか。
西安といえば、餃子文化のメッカ。古くは西周、秦、漢、そして隋〜唐代の首都。西域の遊牧民族のお目付役みたいな位置付けの都。小麦が西アジアから伝わり、西安は餃子や麺類のメッカに。刀削麺も西安名物。
そんなお土地柄の西安出身である辺銀さんが、沖縄でビビビっときてラー油を作り始めたのも、当然の成り行きかもしれません。

さて、そのラー油、今でこそ餃子や麺にラー油などの唐辛子風味が添加される食べ方は普通になっちゃってますけど、唐辛子は中南米原産。"唐"辛子というから誤解しそうですが、15世紀の「大航海時代」にコロンブスが伝えるまでは、唐辛子はまだユーラシア大陸には存在しなかったはずです(!)。

ちなみに、唐辛子が中国に伝わったのは17世紀半ば、明朝末期ですから、ラー油の歴史もそんなに古くないということになります。

昔の餃子は、おそらくお酢とお醤油でいただいていたのではないでしょうか??
そういえば、中国では、餃子に辣油は必ずしも定番ではありません。酢醤油には生姜や生ニンニクを加えて食べたりしています。

この辣油は、教室の皆さんの分です。
皆さん、何のお料理にどんな風にお使いになるのかな〜???




2017年6月12日月曜日

7月の健美膳

今年の夏は(も)猛暑!?
中高年のための夏バテ防止対策

夏バテ予防、熱中症予防、夏の美容に清熱解毒の涼茶

「涼茶」とは中国南部、広東の智恵。
蒸し暑さにやられ易い胃腸を労り、余分な水分「湿」や「熱」毒素を排する効果が期待できる食薬を煎じる漢方茶の総称です。
ミネラルいっぱい、高タンパク、胃腸の負担にならない食事で、この夏も乗り切りましょう!

   <内容>
   ● 夏の補養ドリンク
   ● 冬瓜と枝豆のスープ
   ● 牛しゃぶの豆乳ソース
   ● 冬菜和飯(まぜごはん)
   ●作り置きの1品
   ● 酸梅湯ゼリー
   ● 涼茶


 2017年 7月1日(土)、2日(日)、5日(水) 10:30 ~ 14:30

 ※8月はお休みです。

    2017年6月11日日曜日

    熊掌


    「なりたいものを食べる」
    中国人の、食への姿勢を現すことば。
    神田雲林の「蜂蜜熊掌」

    ・・という訳では決して無いのですが、く・・熊を食べてしまいました〜・・・・!

    後ろ足だそうです。
    「よく蜂の巣(蜂蜜)を食べる左手だけを使う」「左手は蜂蜜の味がしみているので美味しい」なんて言いますが、ちょっと調理の手順等お聞きしたら、それはあり得ないということがよく分かりました。
    皮を剥がして、何度もゆでこぼして臭みを抜き、煮込んで骨をハズして・・・といろいろ手を掛けた後、最終的にまるでそのままであるかのような姿に整えるのです。そんな行程ですから、蜂蜜の味なんてあり得ない、あり得ない(笑)。
    ちなみにこのお料理は、蜂蜜と香醋で仕立ててありましたので、蜂蜜入りです。
    蜂蜜入りではありますが、決して蜂蜜が立たないようなバランスですのでやっぱり蜂蜜味ではありません。
    (写真にある、毛に見立ててある部分は髪菜(ファーツァイ)という藻の一種です。)

    この手の掛かるお料理と同じテンションで作っていただいたもう一品の逸品もご紹介したい!

    黄燜鹿筋翅
    宮廷式フカヒレと蝦夷鹿アキレスの譚家菜『黄燜』スープ煮込み。
    上海から提げてかえったフカヒレにスープを濃く濃く取った上級スープを浸ませた宮廷式。「燜」とは煮込みのこと。「譚家菜」とは、新王朝末期の高官だった譚宗浚の譚家の、宮廷に伝わる料理。調味料を一切使わず食材本来の味「素」を最大限に活かした調理法がその特徴。ソースやアンなど、全て同様に長時間かけて食材の旨みだけで仕上がっているんだそうです。
    その代表が、このフカヒレということになろうかと思います。味の希薄なコラーゲン質のフカヒレの旨さは、煮含められるスープにあるのですから。そのスープ(アン)を、譚式で仕上げてあるという訳です。金華ハムの塩分があるとはいえ、しっかりとした味を出すのに大変な手間と時間が掛かっています。
    甘すぎず、鹹すぎず、濃すぎず(濃いはずなんだけど)、油っぽくなく・・・という、中庸の味こそが究極の滋味なのではないでしょうか。

    張競さんの著書『中華料理の文化史』によると、フカヒレの料理は、明末清初頭頃に僅かな記述があるものの、料理として認知されるのは乾隆帝の時代の1760年代ではないかとのこと。
    中国4千年といえども、古典として今日に伝わり残るものは、せいぜい二百年ぐらいのものなのか・・・。時の流れ、世の動きと共に進化に順応できたものだけが伝わるのでありますね。

    「宮廷料理は薬膳」という言葉の所以も、こんなところにあるのでしょう。
    私はこのフカヒレこそ「薬膳」といいたい!!

    時短と舌先の美味しさに翻弄される昨今の食に一石を投じるような一品でした。

    さて、なりたいものを食べたはずの私。
    ごまかしの利かない、重ねられた旨みが出せる人になれるでしょうか???
    (熊になってたりして・笑)

    6人での食事でしたが、この二品を食してから15~30分後、気がつけば、みな一皮(シャツ1枚)脱いでおりました。熊、温まる!!
    フカヒレの濃密なスープ(鹿もはいってるし)、温まる〜!!!

    食する季節はちょっとずれ込んだものの、料理のチカラを体感する素晴らしい機会となりました。

    僭越ながら、これからこういう食体験を皆さんにも食事会という形で折々に提供していきたいと切に思う今日この頃です。



    2017年6月7日水曜日

    パンデピス 


    Pain d' epice

    パン・ド・エピス=スパイスのパンという名のお菓子(パン?)。
    フランスはブルゴーニュ地方の郷土菓子。

    フランス菓子のバターたっぷりのイメージとは離れ、油脂を使わず蜂蜜とお粉(小麦粉とライ麦粉)と重曹、スパイス…という限りなくシンプルな材料で作られています。
    そのシンプルなお菓子をここまで魅力的にしているものは何なのか・・??

    それはきっと、溜息が出るような、長〜いお話が付いているから。

    パン・デピスのルーツは、フランスを代表する食物史家マグロンヌ・トゥーサン=サマの言葉を借りれば「パン・デピスの道はシルクロードと同じくらい重要で、ときにはそれと、地理的に重なる」のであります。
    10世紀の中国を支配していた宋王朝の頃にはあったと確認される「ミ・コン」=保存食の蜂蜜パン。チンギズ・ハン率いるモンゴル軍がこれを兵糧としたことで、東欧へと伝わることになったといいます。
    その頃のヨーロッパといえば、十字軍遠征(1019年から1272年まで全8回に渡る!)が続いており、巡礼者によって「ミ・コン」がヨーロッパへと伝わるのでした。その過程(トルコあたり)でスパイスが加えられるようになり「ミ・コン」は、「蜂蜜パン」から「スパイス蜂蜜パン」となっていったのですね。))
    蜂蜜もスパイスも、当時は大変貴重なもの。さらにエルサレム巡礼者により神聖性を増し「レーベンスクーヘン(命の菓子)」としてヨーロッパにもたらされたというのです。十字軍の実体(特に後半)は、決して神聖ではない利害にまみれもしますが、巡礼という名の遠征 - - - - しばしば飢えすら伴う長旅 - - - - で、この滋味な保存食が多くの人々を癒したであろうことは想像に難くないところです。

    形状は異なるけれどパン・デピスと同様の風味のお菓子がドイツ・・アルザス・・ヨーロッパ各地に存在するのはこういった経緯であり、東西食文化の伝播という視点で、マグロンヌさんのいうところの「シルクロードと同じくらい重要」なのでした。

    兵糧だった蜂蜜パンがヨーロッパでは宗教色をおびた食べものになっていった訳ですが、さらに時を経て、スパイスや蜂蜜や砂糖が身近な食材になっていくにつれ、有り難くも庶民のお口に届く代物となって今日まであるという・・・・。

    ふう・・・。)))

    ね、溜息が出る長〜いお話でしょ。

    この長〜いストーリーに思いを馳せてパンデピスを味わうと、カトルエピス(MIXスパイス)とライ麦の醸し出す香りが、ますますエキゾチックな味わいになるのであります。

    パンデピスは保存食の顔も持つお菓子。中国にルーツのあるお菓子なのですよ!

    昨今のパン屋さんやお菓子屋さんのパン・デピスは、短時間で作れるパウンドケーキ風のものが殆どですが、オーボンビュータンのそれは、古典の製法に忠実な「保存食版」。ずしりと重く、コックリとした食感。アニスではなくスターアニス(八角)が使われています。
    その製法は・・・しっかり時間が掛けられています(!)。
    『「オーボンビュータン」河田勝彦のフランス郷土菓子』河田勝彦/誠文堂新光社
    をご覧下さい。 


    昔、ブルゴーニュ地方のディジョンで、肉料理にパンデピスが添えられてきたことがありました。食べ方、使い方もいろいろあるものだなぁ〜))と思いました。
    自由な発想でいろいろ使っていいのだ♪

    ・・という訳で、6月の料理教室「スパイス特集〜カレー道場〜」では、ミルクティーと一緒にマサラティーの味わいとして召し上がって頂きました。