緑豆デンプンと砂糖、卵黄だけで作る、中国北部の幻のスウィーツ。
歯にも、皿にも、箸にもひっつかない。
歯、皿、箸・・これら三つが粘ら不というのが名前の由来だそうです。
「シンプルなものほど難しい」の極みみたいな料理で、材料を合わせて、中華鍋に入れ、火にかけ、濃いカスタード状になったものを、カッ、カッ、カッ・・・と2000回以上リズムよく混ぜ込んでいきます。その間、同時に鍋肌にラードを垂らし入れます。
卵も砂糖もデンプンも、ともすれば焦げ付きの原因となる素材。
それを、中華鍋ひとつで、テンポ良く混ぜ合わせていくうちに、やがて生地は、鍋にもくっつくことなく、餅のように、鍋の中でうねり踊りはじめます。火は、ラード特有の豚臭みが飛ぶほどに、ほどほど強火。
カッ、カッ、カッ・・・・。
生地がほのかにオレンジ色味を帯びてきて(焦げていないけれど焼いている!)、均一の伸びと粘りが満ちたら完成。
お皿にスルリと滑らせた三不粘が、ちょうどきれいな満月のようなら、120点。
この日の三不粘は、ちょっと満月が潤んだ感じでしたが、完璧な色とツヤで、観客の喝采を浴びました。
箸でつまむと、できたてのういろうのように、ふにゃっと伸びて、ぷるんと切れました。
大変な技術を要するスウィーツらしく、日本の中国料理シェフでも、これが作れるのは数人なのだそうで、シェフの間では「腱鞘炎料理」との別名をとり、失敗したら「お勘定にも付かない」四不粘になってしまうから、これをメニューに乗せている店は、ほとんど無いそうだ。
今回は、春節の特別料理ということで、竹爐山房の山本豊シェフが、特別に腕をふるい、振る舞って下さいました。
素朴と洗練が同居したこのデザートは、まさに中国料理のマジック!