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Tourte Pyrénées |
こちらはフランス南部のお菓子、トゥルト・ピレネー。
パスティス風味でコックリとした食感の焼き菓子です。
「パスティス」は、アニス風味のリキュールで、南仏では食前酒として人気のお酒です。(・・が、大変強いお酒なので、日本人には食後が好ましいかと・・・(^^;)。)
1915年にヨーロッパで製造・販売・流通が禁止されたアブサン(absinthe)というリキュールが中毒性があるとして禁止になり、その代替品として登場したのがパスティス。
レオナルド・ディカプリオ出演の映画『Total Eclipse / 太陽と月に背いて』(1995)では、アブサンにおぼれる詩人が彼の役どころでした。
フランス産業革命の後のナポレオン3世(在位1852-1870)の頃が映画の時代背景でしたから、まだアブサンが禁止されていない頃。パリの街も丁度大胆な区画整理がなされた直後。民衆には、強制立ち退き等で、ある意味過酷だった時代の話。童顔のデカプリオが目の下にクマをつくって、場末の酒場で緑色のアブサンで乾杯するシーンだけは、印象に残っていて「アブサンてこわ〜い」と、インプットされておりました。
アブサンとは、18世紀にフランスの医師ピエール・オルディネールがスイスで開発したニガヨモギを主成分とした薬酒で、薬理効果としては、抗炎症作用、解熱作用、鎮痛作用。アルコールもウォッカ並(!)。後にアニスや香草類複数で風味付けされ製品化されました。
ニガヨモギは、食欲増進作用があるとされたり、船酔いに効果があるとされていたり、その他リウマチ、ペスト、コレラ、駆虫薬等々、ヨーロッパ各地でずっと薬草とみなされてきた珍しくない草らしいのですが、香味成分のツヨンが幻覚や妄想、精神攪乱など向精神作用を引き起こし中毒性があるのです。なんだか今どきのハーブ系麻薬ドラッグみたい。
現在では、WHOが中毒に影響しない数値を出してアブサンの製造は復活しているようですが、このアブサンの代替品として生まれたのが「パスティス」という訳なのです。
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禁止される以前は、ゴッホ、モネ、ロートレック、ピカソなど蒼々たる芸術家の感性を引き出してくれる妙薬でもあったようですが、破滅に導かれたアーティストも多々いたようで、そんなひとりが同時代を生きたデカプリオ扮する詩人のアルチュール・ランボー。
一方パスティスは、スターアニス(八角)、リコリス(甘草)、フェンネル(茴香)が香りの主成分。アブサンと類似の味と香りなんでしょうが、もちろん中毒性はアリマセン。なんだかウチでも仕込めそう(笑)。
中でも、アニスの主成分アネトールが1L当たり2g以上含まれるものは「パスティス・ド・マルセイユ」と呼ばれ、風味が高い製品としての位置づけがあるようです。
お菓子に使うなら「マルセイユ」が付いたパスティスが良さそう♪
世界中でベストセラーになったピーター・メイルの『プロバンスの12カ月』でも登場し、広く知られることになったローカル・リキュールなのでした。
実は私も昔、フランス出張の際、危険なアルコール度数とは知りながら、好奇心で会食時にオーダーしたことがあります。オーダーのとき「Realy??」と確認されたのを覚えています。水で割るとレモネードみたく白濁し、甘いのですが、ガツーンと強烈で・・・ワインが水の国民にとっての「食前酒」・・・私には頭痛酒でした。)))
すっかり脱線してしまいましたが、さて、このトゥルト・ピレネー。
パスティスの香りと、ぷつっ・・ぷつっ・・とアニスの粒が・・・。
パウンドケーキのような生地なのに、ピレネー山脈を思わせるインパクトのある形とパスティスの香りですっかり南仏のシロモノとなっております。
そういえば、オーボンビュータンの河田さん、おっしゃってました。
「そう名乗るからには、型もそうあるべき」。配合や型と共に、お菓子の名前があると。
この形と香りと共に、南ピレネーのイメージを膨らませてみよう。
港街マルセイユの喧噪を離れ、地酒のパスティス(アブサン?)を抱えてピレネーの友人を尋ね、一杯やる・・・なーんてね。あーら、ティータイムより酒盛りのシーンが浮かんでしまいました。