2019年11月28日木曜日

『大草原の小さな家』(余白)〜ローラが生きたアメリカ〜

『大草原の小さな家』は、ローラ・インガルス・ワイルダー(1867~1957)の自叙伝『Little House in the Big Woods』を元に作られた小説をドラマ化したものです。

TVドラマは、1シーズン22〜24話  × 9シーズンの構成となっています。

ドラマのウォールナットグローブでの暮らしは、一家が安住の地を得たかのように見えましたが、実際はそんなに長くは続かず、原作にはもっと厳しい暮らしぶりが描かれているのだとか。一家はしばしば貧困にも苦しみますし、社会の荒々しい人間模様も垣間見ることになるのです。

原作にある実際のローラの軌跡は、以下の通り。
ローラが生まれた地は、ウィスコンシン州ペピン。7歳頃から15−16年間、カンザス州、ミズーリ州、ミネソタ州(ウォルナットグローブはここにある)と、中西部を転々とし、1879年、最終的にサウスダコタ州に定住します。
成人したローラは、この地でワイルダー氏と結婚。結婚後のローラは、夫の病や子供の死、火災、干ばつなどの災いにも見舞われ、ミズーリ州マンスフィールドへ転居しています。

インガルス一家と結婚後のローラが移動した中西部は、独立したてのアメリカ合衆国が、フランス代表ナポレオン・レオポルトから買い取ったばかりの元フランス植民地“ルイジアナ”* の地でした。
*ルイジアナの「ルイ」は、フランス王の「ルイ」に由来。現在のルイジアナ州とは異なり、ミシシッピーからカナダまでの広大な範囲を指します。この翌年、ナポレオンは皇帝に!

インガルス一家は、開拓した土地は自分のものになる*という希望のもとに、新天地に乗り出したアメリカ版「満蒙開拓団」だったのかもしれません。
*ホームステッド法(自営農地法):1862年、西部の未開発の土地1区画(約65ha)に5年間住んで耕作したら、無償で取得出来るという法律。リンカーンが署名して施行となった。


最後に、ローラが生きた時代が、アメリカ史のどの部分を担っていたかを確認する意味で、ちょっとおさらいしてみましょう。

15世紀末〜16世紀、アメリカは「大航海時代」のヨーロッパ人により「発見」され「探検」され、それを機に、入植がはじまります。その中心となった国々は、スペイン、フランス、イギリス。
スペインは、メキシコ湾あたりから入植。フランスは、東海岸北、セント・ローレンス川から入植し、五大湖水系を制してミシシッピ川沿いに南下、大陸の「中部」を陣取ります。
そしてイングランドは、本国の宗教政策をよしとしないピューリタン(清教徒)らが中心となり、東海岸に13州を建設しました。
*イギリスは、国教会を立ち上げたヘンリー8世、続いてスペイン王家の母の影響でカトリックのメアリー(ブラッディ・メアリー)王女でくちゃくちゃしていた時代です。))

東海岸には、ドイツやオランダからルター派の一派など、宗教的自由を求める者達も多く移り住むようになり、やがて先の13州が重税を課してくる本国イングランドからの「独立」を宣言(1776年)。州を “unite(統合)” し、アメリカ合衆国を立ち上げます。
初代大統領は、ご存知ジョージ・ワシントン。彼は独立戦争時の植民地軍・総司令官でした。

自由主義を掲げて憲法を発効し、通貨も「ドル」に決まり、更にスペイン、フランス、イギリスの植民地を次々と割譲させたり買い取ったりで、領土を拡大して国としての体制作りに着手。建国から80年足らずで、カナダ以外の北アメリカ大陸の土地の殆どを手に入れています。*添付地図参照
そして、新しく得た土地は、開拓民に開拓させ払い下げていったのです。





銃を手に自然と格闘していた開拓民が多いのは中西部。(ここは今でも銃規制に反対の地域)。

独立から80年後、南北の産業の違いや州の自治を望む南部と連邦の中央集権を目指す北部の対立から「南北戦争」(1861-65)が起こります。これは経済上の利害を巡る戦争でもあり、統一国家となるための「アメリカ版関ヶ原」の戦いでした。自由平等の精神を謳う民主的な憲法と奴隷制度が言い訳の付かない突っ込み所だったこともあり、奴隷解放を掲げた北軍に有利に作用しました。
南北戦争の後、社会の受け皿も無いまま解き放たれた黒人たちは、すぐに暮らしに困ることになり、仕事を求めて都市に流れ込み、スラムが形成されていくのでした。

自由平等を掲げたアメリカも、宗主国生まれ、植民地生まれ、先住民、奴隷、これら様々な組み合わせの混血によって、社会の中に階級の違いが出来上がったりして、なかなか「理想の地」とはいかなかった様子。貧富の差も広がります。

外交面では、ヨーロッパ諸国の帝国主義の嵐の中、中立を保ちたかったアメリカですが、ヨーロッパはアメリカにとっては大きな市場でした。
戦時特需もあり、国の財政が潤い国力を増し、やがて各国に資金提供することで影響力を強めていきます。
第一次世界大戦の戦後の超好景気〜投機ブーム(バブル景気)、そして1929年、大恐慌がーーー。それは世界へ波及し甚大な被害をもたらします。アメリカは、ニューディール政策で自国優先の政策を、イギリスやフランス、オランダやベルギーなども連携してブロック経済を実施、グループに入れなかったドイツやイタリアは、自力で景気を回復させることが出来ませんでした。(日本もイタリア、ドイツと同様。)こうして国際秩序は破綻し、気が付けば、第二次世界大戦へーーー。
ここに至り、アメリカ経済は、軍事経済により完全回復をみる訳です。
戦後は、世界大恐慌の影響を受けなかった社会主義国ソ連と、第2次世界大戦のダメージが少なかったアメリカでの冷戦の時代へーーー。そして朝鮮戦争、ベトナム戦争などの代理戦争・・・。


ローラは、二つの世界大戦の間に『インガルズ一家の物語』を書き(60歳すぎていました)、これら全ての戦争を体験しています。



『大草原の小さな家』を心温まるファミリードラマとしてとらえていた自分は当時、こんなハードな背景など思いもしませんでした。

歴史を鑑みると、アイスランドを買おうとしたトランプの頭の中は、19世紀か!?
と突っ込みたくなりますし、自国優先主義、関税についても、なんだか嫌な気配を感じざるを得ません。)))



ドラマを見ていた小学生(私)は、大学生になって、移民の子孫達と学舎を共にすることになりました。
一軒家をシェアして暮らした仲間たちは、20世紀になってから大陸に渡ってきた移民の2世達ーーーイタリア系、日系、中国系×日系、韓国系アメリカ人、カナダ系イギリス人。

日系の母を持つ友人は、自分達のルーツが記された本をくれました。
本には、20世紀初頭の日系開拓民の写真が載っています。そして本の末尾に「スリー・ジェネレーションズ」と題した写真があり、まだ幼い友人の姿が映されていました。

アメリカで出会った友人たちのファミリーヒストリーに思いを馳せつつ、このテーマを終わりにしたいと思います。







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