2020年11月14日土曜日

『如懿伝』(3)後宮の階級




「ドラマを見ていると名前がコロコロ変わって、付いていくのが大変」という方も。
そこで、後宮での身分制度についてちょっとまとめてみました。


「後宮の麗三千人」という表現がされていますが、これは「詩的誇張の勝った見方」と、ラストエンペラーの弟溥傑さんの妃愛新覚羅浩さん(1914~1987)は著書『食在宮廷』に書いておられます。もちろん専制の時代ですので、「いろいろ誤解に繋がる種が沢山あった」とも。

浩さんが嫁いだ時は、辛亥革命後で事実上既に清朝は崩壊しており、暮らしは新宮でしたが、代々皇帝の側近に使えていた老人から話を聞いたり古い文献をご覧になれるお立場だったので、清朝の真相をかなり知ることができたようでした。


さて、ドラマの舞台、乾隆帝の時代は、16世紀末〜17世紀。日本は江戸中期。
日本は鎖国体制でしたが、清朝も欧州からの朝貢は受けるものの「私達はあなた方から欲しいものは特にありません」という姿勢。日本は元禄文化の揺籃期で、清は文化的ピークを迎えておりました。
後宮のお妃たちは、華々しくそれらを享受していたことでしょう。
お妃たちの衣裳も髪型、備品、皇帝から賜るものなどからも、そのことがよく描かれています。
お妃たちは、〇〇氏の誰々、という姓と名の他に、位を現す呼び方があります。
企業でいうなら、名前を呼ばず、役職である「社長」「部長」「課長」などというように、位で呼ばれるのが一般的なのと同じこと。でも、若い内や親しい間柄同士だで名前で呼んでいることもあります。
「氏+役職名」と役職で呼ばれる時に、氏ではなく皇帝から授かる一字で〇妃、とか〇嬪とかと呼びます。更に、死後は生前の功績を称えた諡(おくりな)を賜ることがあります。
死者に対しては、この諡で呼んでいます。[愛称の一字+身分を現す一字]には???となってしまう方が多いのだろうと思います。

後宮では、皇子を生むと、階級が上がるということがしばしばあったようで、ドラマでも、隆帝が頻繁に叙位しています。
(ああ・・乾隆帝、もう乱発しすぎ。あ、乾隆帝という呼び方も、諡ですのでドラマでは「皇上(ファンシャン)」と呼ばれています。)

史実をチェックしたら、後宮の女性はほぼ確実に子どもを産むと、褒美として1階級ずつ上がっていました。現代人からすると「女は子供を産む道具か!?」とか「子供を産めば偉いのかい!??」・・と、大いに突っ込みたくなるところですが、生き物として子孫を残すことは、
ある意味最優先の道理ですから、世が世なら「衣食住が足りるのを当たり前とするアホな現人め!」と、逆にお叱りを受けるのかもしれません。異なる時代の物差しは使えないということにしておきましょ。

清の時代の后妃制度は、以下のように決められていたようです。

  ● 皇后(福晋)1名  
  ● 皇貴妃(側福晋)1名 
  ※但し、この地位は、皇后不在の時に皇后代理として任命されるのが前提。
  ※皇后がいる場合、皇貴妃はおかないのが原則。
   皇貴妃は皇后不在時に後宮を統括することが多い。
  ● 貴妃 2名
  ● 妃 4名
  ● 嬪 6名 
  ● 貴人 以下定数・品階なし
  ● 常在
  ● 答応  最下位の側室
  ● 官女子 ※格格 最低位の妾をさす。
   第1話でいきなり出てくる「福晋」という呼び方は、満州族独特の呼び方。
    正室=皇后のことを「福晋」、皇子の正室(嫡妃)を「嫡福晋」、
    側室(側妃)を「側福晋」と呼んだようです。

女官上がりだったりすると、一番下の格格(ゲゲ)から昇っていかなくてはなりませんが、名家の令嬢や平和協定の為の政略結婚で、入宮当初から貴人以上の位でスタートする女性もいるようにドラマでは描かれています。
「政略結婚」を和英辞典で引くと[a political marriage]  , [a marriage of convenience]と、何とも解りやすい英訳がでてきます。政治的であり、便利な結婚なのですねw

そうそう、ドラマの初め頃、皇太后の「妻には知を、妾には色を求めよ」って台詞がありましたっけ妃までは「側室」、嬪からは「妾」とされているようですが、ドラマを見る限りでは、その違いは曖昧でわかりません。

いずれにしても、お妃選び「選秀女」の制度は、明代から随分と吟味され、読み書きそろばんができない女性は後宮には居なかったようですし、容姿よりも健康を重視して選ばれていたようです。「外遊先で、皇帝の目に留まり、後宮入り」といったようなことは無かったらしい。
しかしながら、後宮の女性は皆、大前提として皆皇帝にお仕えする身。功を成せば、実家にも褒美が下され、出世して位を賜れば、その身分の親族に相応しいように家の格も上がる。宮廷での娘の活躍で、一族が繁栄するといった側面は、あったようです。

歴代の王朝に見られたいざこざを教訓に、いろいろシステムは改良されてきたものの、とどのつまりは人治国家。
そう! 後宮のゴタゴタは、ひとえにそこなのです(!)
その良しも悪しも、皇帝のお心ひとつで人事を動かす点に凝縮されているように思われます。
・・・と、ドラマ後半に差し掛かりしみじみ思うのでありまする。

<つづく>

参考:

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