2016年7月12日火曜日

『バベットの晩餐会』 (1)

Babette's Feast

http://mermaidfilms.co.jp/babettes/

1987年公開の映画が、デジタル・リマスター版で、八丁座で公開です(7/16〜)♪


晩餐会のシーンが映画の3分の1。だからお料理がテーマのような印象ですが、俯瞰してみると、ちょっと違った印象に。
30年前にご覧になった方なら今回は是非、その時代背景と人物のバックグラウンドに思いを巡らせ、この映画の奥行きもお楽しみいただきたいところです。

映画の舞台は、デンマーク・ユトランド半島海辺の小さな集落。この集落がルター派の信者であること、実は大切なポイントです。1871年、この集落に一通の紹介状を持ってパリから逃亡してきたバベットが牧師の姉妹の家を訪れ、女中として暮らすことになります。
バベットが、何から「逃亡」したのかもポイント。

映画では、その35年前1836年のことが回想的に描かれます。
小さな集落にきた一人目のフランス人オペラ歌手。牧師が「あなたはカトリックか?」と尋ねるシーンがあります。そして二人目のフランス人がバベット。
映画のクライマックスとなる晩餐は、それから14年後(1885年)。ヨーロッパの端っこで坦々と質素ながら平穏に暮らしてきたバベットに、なんとパリの宝くじが当たります。バベットは、そのお金を使って、老いて気むずかしくなってきた村人達の為に晩餐会のお料理を振るまうことに・・・。

時代は、フランス革命(1789年)から約100年後。フランスでは革命以降もずーっと王政と人民による政治との興亡が続いた時代です。(100年掛かりで成し遂げた革命といえるのかもしれませんが…。)
フランス革命後の革命軍自治体による政治が上手くいかず、ナポレオンが出て、それも10年で失脚。再び王政(ルイ18世)が復古し、やがて七月革命(1830年)でブルジョワ王政・・・そんな頃、オペラ歌手パパン、ストックホルム公演後、村で療養(1836年)。牧師の姉妹と出会っています。

その後、二月革命、第二共和制、ヨーロッパの民族独立運動、自由主義が高揚、ナポレオン3世の第二帝政時代に入ります。(1852〜1872年)

この頃のフランスは・・・

    英仏通商協定締結(1860年)  民主主義と専制主義の同居状態。
   ---ジョルジュ・オスマンによるパリ改造 大区画整備が始まります。
   ---フランスの産業革命
   ---1862年  ビクトル・ユーゴーが『レ・ミゼラブル』を書き上げます。
   ---1867年 深刻な恐慌 ストライキ、賃金闘争多発→反政府運動へ発展 
        ひどい食糧不足
   ---1870年 7月 普仏戦争
   ---1871年 3月 パリ・コミューン 
        =パリ市民と労働者の蜂起により樹立した社会主義革命政権。
        バベット、パリ・コミューンに加わる。
   ---1871 年 5月 プロイセン軍に正式に降伏。     
        ---9月 フランスの主要都市でコミューンが結成されるが
                                 短期間で鎮圧される。
    1871 年 バベット、パリからデンマークへ逃亡。姉妹の家を訪ねる。
   ---1872年    第三共和制
    |
    |
 1886年、晩餐会。 


激動の時代の、華々しいフランス・パリと、デンマークの寒村、カトリックとプロテスタントの対比も興味深い。

バベットは、王侯貴族や高級軍人、芸術家たちを顧客にもつパリの高級レストラン、カフェ・アングレの料理長でした。一世を風靡したオペラ歌手のパパンやスウェーデン将軍には、ここで出会っているのです。

でもその後、彼女はパリ・コミューンの一員として市民側で戦ったということが、冒頭のパパンからの手紙にある「夫も子供も殺され、彼女も処刑されそうになった」というところから分かります。
『レ・ミゼラブル』にあるような状況下で「ラ・マルセイエーズ」を高らかに歌いながら、革命側に加わっていたのかも知れません。

この映画のメッセージとは何なのか・・・を考えるのはきっと野暮。
強いて言うなら「C'est  La Vie. /  セ・ラ・ヴィ」〜「これも人生」ということか。
ローレンス・レーヴェンイェルム将軍、アシーユ・パパンと姉妹の運命のいたずら。バベットの数奇な人生。
生きていることは矛盾だらけで、判断の善し悪し、幸不幸では語りきれない。でも、バベットは、この先もこの村で生きることを選んだ。

最後の、バベットのセリフ、「貧しい芸術家などいません」。
これはこの映画監督自身の声のような気もしてきます。
バベットは、料理人である自らを芸術家と評しています。芸術家は、作品によって人の心を解き放つ。それができる限り「豊か」であると。村人たちの質素な暮らしぶりの中にも、それぞれに異なる豊かさの有り様を見出していたのかもしれません。

クライマックスで描かれるのは、人々が美味しい料理とお酒を頂くに従って、心解き放たれていく様子。ルター派のストイックな教えを反芻しながらも、ご馳走にどうしようもなく動物的本能をくすぐられていく。
和を保ち心穏やかに暮らすための教義に溢れた信仰も、ストイックなだけでは上手くいかない。本能が満たされることも大切。こちらも全く沢山の矛盾を抱えておりますねえ)))。

晩餐会で出たお料理とお酒のお話は、次回に♪





0 件のコメント:

コメントを投稿