Pain d' epice |
パン・ド・エピス=スパイスのパンという名のお菓子(パン?)。
フランスはブルゴーニュ地方の郷土菓子。
フランス菓子のバターたっぷりのイメージとは離れ、油脂を使わず蜂蜜とお粉(小麦粉とライ麦粉)と重曹、スパイス…という限りなくシンプルな材料で作られています。
そのシンプルなお菓子をここまで魅力的にしているものは何なのか・・??
それはきっと、溜息が出るような、長〜いお話が付いているから。
パン・デピスのルーツは、フランスを代表する食物史家マグロンヌ・トゥーサン=サマの言葉を借りれば「パン・デピスの道はシルクロードと同じくらい重要で、ときにはそれと、地理的に重なる」のであります。
10世紀の中国を支配していた宋王朝の頃にはあったと確認される「ミ・コン」=保存食の蜂蜜パン。チンギズ・ハン率いるモンゴル軍がこれを兵糧としたことで、東欧へと伝わることになったといいます。
その頃のヨーロッパといえば、十字軍遠征(1019年から1272年まで全8回に渡る!)が続いており、巡礼者によって「ミ・コン」がヨーロッパへと伝わるのでした。その過程(トルコあたり)でスパイスが加えられるようになり「ミ・コン」は、「蜂蜜パン」から「スパイス蜂蜜パン」となっていったのですね。))
蜂蜜もスパイスも、当時は大変貴重なもの。さらにエルサレム巡礼者により神聖性を増し「レーベンスクーヘン(命の菓子)」としてヨーロッパにもたらされたというのです。十字軍の実体(特に後半)は、決して神聖ではない利害にまみれもしますが、巡礼という名の遠征 - - - - しばしば飢えすら伴う長旅 - - - - で、この滋味な保存食が多くの人々を癒したであろうことは想像に難くないところです。
形状は異なるけれどパン・デピスと同様の風味のお菓子がドイツ・・アルザス・・ヨーロッパ各地に存在するのはこういった経緯であり、東西食文化の伝播という視点で、マグロンヌさんのいうところの「シルクロードと同じくらい重要」なのでした。
兵糧だった蜂蜜パンがヨーロッパでは宗教色をおびた食べものになっていった訳ですが、さらに時を経て、スパイスや蜂蜜や砂糖が身近な食材になっていくにつれ、有り難くも庶民のお口に届く代物となって今日まであるという・・・・。
ふう・・・。)))
ね、溜息が出る長〜いお話でしょ。
この長〜いストーリーに思いを馳せてパンデピスを味わうと、カトルエピス(MIXスパイス)とライ麦の醸し出す香りが、ますますエキゾチックな味わいになるのであります。
パンデピスは保存食の顔も持つお菓子。中国にルーツのあるお菓子なのですよ!
昨今のパン屋さんやお菓子屋さんのパン・デピスは、短時間で作れるパウンドケーキ風のものが殆どですが、オーボンビュータンのそれは、古典の製法に忠実な「保存食版」。ずしりと重く、コックリとした食感。アニスではなくスターアニス(八角)が使われています。
その製法は・・・しっかり時間が掛けられています(!)。
『「オーボンビュータン」河田勝彦のフランス郷土菓子』河田勝彦/誠文堂新光社
をご覧下さい。
昔、ブルゴーニュ地方のディジョンで、肉料理にパンデピスが添えられてきたことがありました。食べ方、使い方もいろいろあるものだなぁ〜))と思いました。
自由な発想でいろいろ使っていいのだ♪
・・という訳で、6月の料理教室「スパイス特集〜カレー道場〜」では、ミルクティーと一緒にマサラティーの味わいとして召し上がって頂きました。
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