2020年5月12日火曜日

パンデミック・エピデミック (10) 変わる世界1

日々、あまりに状況の変化が早くて、何かを調べたり書きかけると、また新しい情報が飛び込んでくる。))情報整理とupdateが追いつかない日々です。

そんな中で、普遍の部分や経済の法則からこのパンデミックをとらえ、冷静な分析をしている知識人の方々の意見に触れると、それがたとえ大変な現実だとしても、どこか落ち着いて向き合える気がしてきます。


4月11日の、ETV「パンデミックが変える世界」〜海外の知性が語る展望〜

NHK国際報道チーフプロデューサー&解説委員 導傳愛子氏がSkypeで世界の知性三人と対談する番組。

そのお三方とは・・・

①国際政治学者イアン・ブレマー/ Ian Bremmer(国際政治学者)
政治リスク専門の世界最大のシンクタンク代表
- - - 指導者なき世界が漂流を始める危機にある。
今、私達の時代における最も深刻な危機が発生しています。
世界秩序が激変するでしょう。
キーワード:ヒューマニティー 世界のコーディネーション

②ユヴァル・ノア・ハラリ / Yuval/Noah/Harari(歴史学者・作家)
- - - 人類は、大きな岐路に立っている。
次の2〜3カ月の間に私達は世界を根底から変える壮大な社会的・政治的実験を行うことになるでしょう。
キーワード:民主主義への挑戦 独裁の危機 

③ジャック・アタリ / Jacques Attali(経済学者・思想家)
- - - 今こそ人類は、この危機をチャンスに変えるべきだ。
長期的に見ると、このままでは勝利は望めません。経済を全く新しい方向に変える必要があります。もっと世界の連帯が必要です。
キーワード:結束と連帯  (Solidarity)   利他主義への転換


賢者三人が、広い視点でこのパンデミックの意味するところを語っておられます。
お三方はずっと以前からこの危機を予想し、著書等で警鐘を鳴らしてこられました。
現在の社会の状況は、コロナ以前から予測できた混乱であり、コロナが引き金となり諸々を浮き彫りにしたと言えるのです。
世界スケールで危機迫るものがありながらも、私達がすべきことを、シンプルに諭しておられる素晴らしい対談でしたので、ここにまとめておきたいと思います。

特に、日本で不埒な法案が決議されようとしている今、早急なのは、②のハラリ氏のお話。

実際にハラリ氏の祖国イスラエルで起こったこと、そして今回ハンガリーで起こっていることを例に、監視ツールや一時的な措置が、危機が去った後も残されてしまう悪しき傾向を示唆し、民主主義が崩壊する危機がどのように起こり得るかを警告しています。
ハラリ氏のこの主張は、4/26のサンデーモーニングの「風を読む」のコーナーでも取り上げられられました。

以下、ハラリ氏のインタビューの全文です。
長いですが、そのままを書き出すことにしました。
是非ご一読下さい。


ハラリ氏:今、歴史の変化が加速する時代に突入しようとしています。
次の2〜3カ月の間に、私達は世界を根底から変える壮大な社会的、政治的実験を行うことになるでしょう。
例えば、雇用市場です。コロナ聞きで組織労働者の更なる弱体化が進むかも知れません。
インターネットで仕事を請け負う「ギグ・エコノミー」で働く人には、組合もなく保護を受けられません。

このような人が増えるか、その逆もあり得ます。そして多くの企業に救済策を要請しています。
この緊急事態において、自由市場にだけ頼ることが出来ないのは誰の目にも明らかです。
一部の国は、経済システムと雇用市場をより良いものに作り替えるいい機会となり得るでしょう。

私達は選択肢が数多くあることを理解すべきです。そして、それらは政治的選択です。
これは、事前に決まっていることではありません。ウイルスが私達に変わって決断をするわけでもありません。それは政治家の仕事であり、政治家を監視する市民の仕事です。
メディアと一般の人達には、ウイルスの流行にだけ関心を持つべきではないと言いたいです。
「今日は感染者が何人だった」とか「病院に何台の人工呼吸器がある」といった話は重要ですが、政治的状況にも焦点を当てるべきです。

道傳Q:コロナウイルスと権力について。
このような緊急事態で、政府はこれまでに無いほどの権力を手にすることができます。これは何を意味するのでしょうか?

ハラリ氏:全体主義的な体制が台頭する危険があります。ハンガリーが良い例です。
形式的にはハンガリーはまだ民主国家ですが、オルバン政権は、独裁的とも言える権力を握りました。それも無期限の独裁的権力です。
緊急事態がいつ終わるかはオルバン首相が決めます。
他の国にも同様の傾向があります。非常に危険です。
通常民主主義は、平時には崩壊しません。崩壊するのは決まって緊急事態の時なのです。
オルバン首相率いる与党は、感染拡大を受けて、非常事態法を議会に提出し可決。首相の権限が拡大され、議会の可決無しに非常事態宣言が無期限で延長できるようになりました。更に感染防止を妨げる虚偽の情報を流したものには、最長5年の禁固刑が科される。
メディアへの威嚇に利用されかねないと、国民から批判の声が上がっています。

道傳:ハラリ氏の母国イスラエルでは、この危機の最中に行われた総選挙で、ネタニヤフ首相の指示勢力が過半数を割りました。
暫定首相になったネタニヤフ氏は拡散防止対策を理由に、野党が多数をしめる議会を閉会しようとしました。
これまで政治的発言を控えていたハラリ氏ですが、これには批判の声を上げました。
「コロナは民主主義を殺した。ネタニヤフは選挙に敗れたのに、立法府を綴じ、市民に家に留まるよう緊急命令を発した。これは独裁政権だ。」(ハラリ氏の声明)

ハラリ氏:この時は、非常に危険な瞬間でした。ウイルスの流行と闘うという口実を使った政治的クーデターでした。実際、首相は「議員の健康を守る為に議会を閉鎖する」といいました。とんでもない話です。
幸いにも、国民やメディア、対立する政党から大きな反発があって、首相は閉鎖を撤回しました。
今、議会は再開され、非常時を乗り越えるための大連立工作が進んでいます。
しかし一時は、イスラエルがハンガリーのようなコロナ独裁国になる危険もありました。
コロナウイルスと闘うという口実の独裁制です。

独裁者は効率が良いし迅速に行動できます。誰とも相談する必要が無いからです。
1人の人物に強大な権力を与えると、その人物が間違った時にもたらされる結果は遙かに重大なものになる。
間違いを犯しても決して認めず、隠蔽します。
メディアコントロールをしているので、他の手法を試すのでなく、間違いを更に重ねます。そして責任を他の人に転嫁します。
そうやって益々権力を強化していきます。そして益々間違いを重ねていきます。

  (私)ココ、何だか日本でも具体的に事件がありましたよね!!
   隠蔽・・といえば、公文書の書き換え。森友。。。責任転嫁され、自殺者まで出ました。
   メディアコントロールも確かにあります。。。

民主主義に大切なのは、政治が間違いを犯したときに自らそれを正すこと。そして政府が間違いを正そうとしないときに抑制する力を持つ別の権力が存在するということです。

イスラエルでは、1948年(第一次中東戦争の時)に出された緊急事態宣言がまだ続いています。多くの緊急命令が未だに法的に有効です。緊急措置が適用されるのは危機の間だけで、危機が去ればいつも通りに戻ると思いがちですが、それは幻想です。
緊急時だからこそ民主主義が必要です。
チェック&バランスが維持されなければならない。

政府を権力につながる人だけでなく国民全てに奉仕させるために、透明性と監視が必要なのです。

(政府が)何かを市民にしてもらいたいなら、市民を適切に教育し、信頼できる情報を提供した上で、市民が自らの意思で正しく行動してくれると信頼する方が、ずっと良いやり方です。

ひとりひとりの努めは、①現在の状況や誰を信じるべきかについて知識を付け、大学や保健省など信頼に足る組織から出された指針を忠実に守り、陰謀論の罠に陥らないこと。
②政治状況に目を光らせておくこと。
今この瞬間にも、極めて重要な政治決定が行われています。
その決定に参加し、政治家たちの行動を監視することがとても重要です。

道傳Q:このパンデミックが持つ意味とは?

ハラリ氏:人類は、もちろんこのパンデミックを乗り越えることができるでしょう。
私達は、このウイルスより強いし、過去にもっと深刻な感染症を生き抜いてきた経験があります。
このパンデミックのインパクトが究極的に何をもたらすのかは、決まっていないのです。

もし私達が、自国優先の孤立主義や独裁者を選び、科学を信じず陰謀論を信じるようになったら、その結果は、大惨事(big  catastrophe)  ーーー多くの死者を出し、経済は崩壊、政治的カオス。

しかしもし私達が賢くグローバルな連帯や民主的で責任ある態度を選び、科学を信じる道を選択すれば、死者や苦しむ人が出たとしても、後になって振り返れば、人類にとって悪くない時期だったと思えるはずです。
私達人類は、ウイルスだけでなく、自分達の内側に潜む悪魔を打ち破ったのだ。憎悪や幻想、妄想を克服した時期として、真実を信頼した時期として、以前よりずっと強く団結した種になれた時期として、位置づけられるはずです。

パンデミックと世界史のお話は、引き続き折々に書いていくつもりですが、
「今この瞬間にも、極めて重要な政治決定が行われています」というハラリ氏の言葉にもある「今」が来ている気がして、このインタビューをご紹介した次第です。


イアン・ブレマー氏、ジャック・アタリ氏のインタビューについては、次回に。

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