2020年5月26日火曜日

パンデミック・エピデミック(12)変わる世界3

緊急事態宣言の解除から数日。
再び街に人が増えると、まるで何事も無かったかのような錯覚に陥ります。
でも、再び第2波が来ることは世の法則といってもいいくらい確実だそうですので、そろり、そろりと踏み出しております。

さて、4月11日の、ETV「パンデミックが変える世界」〜海外の知性が語る展望〜
世界の知性三人の対談3人目。ヨーロッパを代表する知性、フランス歴代の政権の顧問も務めた、経済学者で思想家のジャック・アタリ氏のインタビューです。
一人目は5/12二人目は5/18に紹介済み)


放送から2カ月近くになるけれど、2020年の危機を10年前から語られていた賢者の方々の語るところは、今もって新鮮にひびく・・・というより、これから、私に・・そして多くの人々に、実感を持ってビンビン響き始めるのではないかと。))

以下、全トークの書き出しです。

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ナレーション:アタリ氏は、2009年出版の著書『危機とサバイバル』で、「市場のグローバル化や自由な流通により今後10年で破滅的なパンデミックが発生する恐れがある」「パンデミックは、多くの個人、企業、国家のサバイバルにとって非常に大きな脅威である」と、未知の感染症によるパンデミックが起こる危険を警告していました。

Q.2009年にパンデミックを予告されていました。今回のことは、驚くに当たらない、予告した通りのことが起きたとお考えですか?

10年前、確かにパンデミックのことを書きました。確立が低くても、そうした声には耳を傾けるべきだし、リスクが高い時には行動を起こすべきなのです。私達の生きている時間は短いのですから。


Q.このパンデミックは、私達に何を警告しているとお考えですか?

多くのことです。衛生、社会の透明性、そしてパンデミックの警告を世界で共有するルール作りの重要性について。


Q.パリでは今(※4月初頭のことです)、都市の封鎖が実施されていますが、感染拡大が終息する兆しは依然見えません。パリ市民はこの困難にどう対処していますか?

フランスは、起立を守る中央集権型の国家で、政府がひとたび決定すれば、皆最善を尽くします。もちろん、とても困難な状況ではありますが。
日本やフランスでも多くの人々が、今尚任務についていることに感謝したいと思います。医療や食料品、流通、メディアなど、仕事をしている大勢の人が家の外へ働きに出ています。例えば、ゴミの回収や病院の清掃を行うひとなどもそうです。彼らは、私達の都市が生き延びる上で絶対的に必要な仕事を担っています。

社会階級や社会的要求の違いによっては困難も生じます。都市が封鎖されて家に閉じ込められても、裕福な人は家に居れば良いでしょう。しかし、狭い場所に詰め込まれた人にとっては困難が伴います。


Q.3月半ば、このパンデミックの及ぼす深刻な問題を分析しておられますね。新型コロナウイルスは、何を生むのでしょうか?

今、世界を襲っている危機を乗り越えることほど緊急の課題はありません。もし国家がこの悲劇をコントロール出来ないと証明されてしまったら、市場と民主主義という2つのメカニズムは崩壊してしまうでしょう。


Q.経済学者であるあなたから見て、世界経済に与える打撃はどれほど深刻になると思いますか?

最悪の事態を避けるためには、最悪を予想する方が良いと思います。

私達は今、1929年以来の最悪の危機に陥っており、2008年(金融危機)と比べても遙かに深刻です。世界経済の損失は、(プラス1とかマイナス1ではなく)GDPで20%にも及ぶかもしれません。

もちろんこれは、世界経済の最も重要な牽引国のひとつであるアメリカが、殆ど備え無しにこの危機的自体に突入していることと明らかに関係しています。

この損失は、決して小さくは済まないでしょう。もちろん各国の政府は、状況を改善する為に中央銀行による金融政策、思い切った財政など、できることは既に全てやっています。
上手くいっているかどうかはともかく、世界中で多くの支援が行われていることは確かです。但しそれは、結果を先延ばしにしているに過ぎません。レストラン、ホテル、店舗、スタジアムや航空業界など、人々が集まることが予想される業種は、とても大きな影響、10%などでは無く60%、あるいはそれ以上の影響を受けるでしょう。


Q.とても恐ろしい見通しですね。貴方は、第二波、第三波にも備えるよう警告されています。状況はあとどれくらい続くのでしょうか?

私は、医者ではないので、それはわかりません。
只、過去の例を見ると、パンデミックの最初の封じ込めや都市封鎖によって上手く終息したときに外出して感染するという間違いを多くの人が犯しています。
1918年のヨーロッパでは、スペイン風邪が蔓延したとき、第一波で既に多くの犠牲者を出しましたが、外出するタイミングが早すぎて、第二波では更に多くの犠牲を出していました。

Q.私たちは、医者でもなければ未来を占う水晶玉も持ち合わせていません。ですが、コロナ後の世界は、どうなっているのでしょうか?最悪のシナリオとは??

最悪のシナリオは、世界的な恐慌、失業、インフレ、ポピュリストによる政府の誕生、そして長期不況による暗黒時代の到来です。
そうならないとは思いますが、最悪のシナリオが起こるとすれば、さっき言ったように早く外出し過ぎて第二波に遭遇し、経済に打撃を受けるということでしょう。

他にも非常に悪いシナリオが起こり得ます。
新しいテクノロジーを使って、国民の管理を強める独裁主義の増加です。
例えば、中央ヨーロッパで、ハンガリーなどの政府がしたように、パンデミックを独裁主義に向かうための口実にするのです。 それがひとつの脅威です。
さらに、経済、健康、そして民主主義への脅威もあります


Q.緊急事態が民主主義に与えるインパクトについて、お尋ねします。
たとえ民主的な指導者であっても、緊急時には前例のない権力を手に入れることがあり、大衆も厳しい政策を支持することがあります。それは民主主義にとってどのような意味を持つでしょうか? 

確かに、安全か自由かという選択肢があれば、人は必ず自由ではなく安全を選びます。それは、強い政府が必要とされることを意味します。しかし、強い政府と民主主義は、両立し得るものです。
第二次世界大戦の最中のイギリスが良い例です。協力な政府を持ちながら、民主主義でもありました。


Q.このパンデミック中で、差別や分断が以前より目立ってきているのではと懸念しています。それについては同意されますか?

はい、連帯のルールが破られる危険性が極めて高い - - -つまり利己主義です。経済的な孤立主義が高まる危険性もあります。他の国に依存し過ぎるべきではないというのは事実です。
例えば「どうかエチオピアにマスクをうってくれ」と、中国などに懇願しなくても済むように。しかし、だからといって国境を閉ざしてしまうべきではありません。私達は、もっとバランスの取れた連帯を必要としているのです。



ナレーション:  "パンデミックという深刻な危機に直面し、今こそ「他者のために生きる」という人間の本質に立ち返らなければならない。協力は競争よりも価値があり、人類はひとつであることを理解すべきだ。利他主義という理想への転換こそが、人類のサバイバルの鍵である。"

危機的な状況の中でも、アタリ氏が選ぶ言葉はあくまで前向きです。
今こそ連帯が必要だというアタリ氏は、「利他主義」という思想を主張してきました。
今回の危機を受けて、改めて「利他主義」への転換を強く呼び掛けています。

Q.貴方のブログをずっと読んでいますが、その一貫した楽観主義が印象に残りました。そのポジティビズムや楽観主義は、どこから出てくるのですか?

    Cheers for Life!

    Thank and Live Positive!

ポジティビズムは、オプティミズムとは違います。例えば、観客として試合をみながら、自分のチームが勝ちそうだなとかんがえるのは、楽観主義です。一方、ポジティビズムは、自らが試合に参加し、上手にプレイできればこの試合に勝てるぞ!と考える事です。そういう意味では私はポジティブであると言えるでしょう。 

私は、人類全てがこの試合に勝てると考えています。

自分達の安全の為に、最善を尽くし、世界規模で経済を変革させていくことが出来れば、きっと勝てるでしょう。今の状況は、私が「ポジティブ経済」と呼ぶものに向かうとても良いチャンスだと思っています。
ポジティブ経済とは、長期的な視点に立ち、私が命の産業 (Life industry---what's needed for life) と呼ぶものに重点を置く経済です。

生きる為に必要な食料、医療、教育、文化、情報、研究、イノベーション、デジタルなどの産業です。生きるのに本当に必要なものに、集中することです。


Q.共感と利他主義について語っておられますが、人々がパニックによって買い占めを行ったり国境を封鎖したりする中で、「利他主義」とはどのような意味を持つのでしょうか? 貴方のことを「無私の聖人(selfless Saint)」のように言う人もいるのでは?

いえいえ、利他主義は合理的利己主義に他なりません。
自らが感染の脅威にさらされないためには、他人の感染を確実に防ぐ必要があります。利他的であることは、ひいては自分の利益となるのです。
また、他の国々が感染していないことも、自国の利益になります。
例えば日本の場合も世界の国々がさかえていれば、市場が拡大し、長期的にみると国益に繋がりますよね。


Q.利他主義とは、他者の利益のために全てを犠牲にすることではなく、他者を守ることこそが我が身を守ることであり、家族、コミュニティ、そして人類の利益にも繋がるのですね。

その通りです。利他主義とは、最も合理的で自己中心的な行動なのです

今回の危機は、乗り越えられると思います。
苦しやワクチンが見つかるかは分かりませんが、数カ月の間に打ち勝てるでしょう。医者ではないので、それが何ヶ月かはわかりませんが。
但し、長期的にみると、このままでは勝利は望めません。経済を全く新しい方向に設定し直す必要があるのです。戦争中の経済では自動車から爆弾や戦闘機へ、企業は生産を切り替えなければなりません。今回も同じように移行すべきです。ただし、爆弾や武器を生産するのではなく、医療機器、病院、住宅、水、良質な食料などの生産を、長期的に行うのです。
多くの産業で大規模な転換が求められます。はたして私達に出来るかわかりません。パンデミックの後、人々が再び以前のような行動様式に戻ってしまうかもしれないからです。


Q.「歴史を見ると、人類は恐怖を感じるときにのみ大きく進化する」と以前おっしゃっていました。私達はまさに今、進化するために、コレまでの生き方を見直すべきだと思いますか? 人々への提言とはーー?

まさしくそう思います。前身するために、恐怖や大惨事が必要だというのではありません。私は破滅的状況は望みません。むしろ、魔法によって今すぐにでもパンデミックが終息してほしいです。しかし、良き方向に進むためには、今の状況を上手く生かすしかありません。

利他的な経済や社会、つまり私が「ポジティブな社会」「共感のサービス」と呼ぶ方向に向かうために。しかし人々は、未来について、考える力がとても乏しく、また忘れっぽくもあります。問題を引き起こしている物事を忘れてしまうことも多いのです
過去の負の遺産(dark souvenir)を嫌うため、それが取り除かれると、これまで通りの生活に戻ってしまうのです。人類が今、そのような弱さを持たないよう願っています。

私達全員が、次の時代の利益を大切にする必要があります。
それが鍵です。
誰もが親として、消費者として、労働者として、慈善家として、そしてまた市民として、投票を行う時にも、次世代の利益となるよう行動を取ることができれば、それが希望となるでしょう。

私達は、同じ時間を生きている。
それを痛感させられるインタビューでした。


今、日本でも、様々な政治的事象が吹き出しているのを目の当たりにしています。

世界の知性お三方が語る事は、根っこは同じ所。
健全な民主主義と健全な市場経済にあると、ヒシヒシと感じます。
そして、これは、実はとてもシンプルなことにあるのだとも。

長年塗り重ねられた様々な思惑で複雑化されたものを、ひとつずつ、もつれた紐をほぐしていくように、シンプルにしていくことが、21世紀の課題かも。


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