2019年10月28日月曜日

『大草原の小さな家』— 料理編4 とうもろこしパン

長々と、主食の食べ物について語ってきました。
命をつなぐ食材=主食が何であったか、どう食されていたか。そこを考察することで、暮らしぶりが浮かび上がってくる。ですからつい、力が入ってしまいます。
もう少しお付き合い下さい。

トウモロコシパンのいろいろからも、厳しい開拓民の暮らしぶりがひしひしと伝わってきました。
「今日の糧に感謝します」という食事の前の祈りの言葉は、毎日心の底から出てくる言葉だったに違いありません。
今日私達が食べているようなふっくら柔らかい小麦粉のパンはとても贅沢な代物だということも再認識。

アメリカに限らず、日々御飯を炊くようにパンを焼く小麦文化圏には、様々な「即席パン」があり興味深いところです。また小麦文化圏には小麦代用作物 ---- それはしばしばトウモロコシなのですが ----- の主食料理がある点にも注目です。

アメリカから遠く離れた同じ時期の中国にも、トウモロコシパンが!!
『中国料理大全ー北京料理』より
こんな風に窠があります

清朝末期の権力者、西太后(1835-1908 ←ローラのお父さんとドンピシャ同世代)が、義和団の乱で西安に避難した折、口にした農民の食べ物「窩窩頭(ウォウォトゥ」がそれです。
トウモロコシ粉を水で練った生地にくぼみを作って蒸し上げたもので、くぼみに漬物や炒め物などを詰めて食べます。
家畜のエサのような甘味のないトウモロコシ粉からつくられる窩窩頭は、決して美味しいものではなかったはずですが、逃避行中の西太后はさぞやお腹がすいていたのでしょう。農民が差し出したそれを「美味しい!」と言って食したのでした。西太后は、北京の紫禁城に戻った後、宮廷料理人に「美味しかった」窩窩頭を作らせました。
宮廷料理には、皇帝が地方巡業したときなどに気に入ったものが取り入れられることが多々あったようですが、こんな農民の粗食を西太后にお出ししたら首が飛ぶのではないかと、宮廷料理人は、飢えてない時の西太后でも美味しく食べられるよう、工夫して美味しい点心「小窩頭シャオウォトウ)」に仕立てました。
粗食バージョンの窩窩頭と宮廷バージョンの小窩頭は、どちらも中国版コーンブレッドです。


ご馳走小麦パン。
それは醗酵の力をもって極まります。

インドの醗酵させないパン=即席パンといえばフライパンで焼上げるチャパティ。
醗酵パンのナンなどは、北部のムガール帝国時代に発展したパン。(ペルシャをはじめ様々な文化を吸収し、中央アジアからきたムガール帝国は、インドをグルメにした国でした!)
醗酵させて、しかも専門の “オーブン”(窯) タンドーリで焼くナンは、消化も良く時間がかかる贅沢パンという位置づけでもありました。

中国の花巻や銀絲捲(イン・スゥ・ジィェン)も、醗酵生地を、凝った成形で仕上げられた宮廷ならではの醗酵パン。

イースト菌が市販されていなかった時代は、醗酵パンは、結構な手間を要する料理です!いや今だって、インスタントドライイーストを使っても、パン作りは最低でも2−3時間は掛かります。日々労働に追われる庶民には、醗酵パンは、やっぱりご馳走です。)))

本にはサワードゥだね / Sour-Dough Starter(酸っぱい種生地)の作り方が載っています。
天然酵母の醗酵種からつくるのです。
開拓民たちも、暮らしが安定してくると、週一でパンを焼くようになったようですが、まずは醗酵だね作りから。主婦のキッチン科学の力がモノをいいまする。

サワードゥだねは、空気中のバクテリアや小麦粉の中に存在する天然のイーストを利用して作られます。どうやって空気中のバクテリアをキャッチするの?と思ってしまうかも知れませんが、小麦粉を水で練って常温に置いておくと、自然に発生してくるのです。小麦粉に含まれる糖質をエサにするので、生地はだんだん甘味を失い酸っぱい味になっていきます。それが「酸っぱい生地=サワードゥ」とよばれているものです。
その酸味を中和する為にアルカリの重曹が加えられ、その重曹から発生する気泡が、またパンのふくれを手伝ってくれるという訳です。

レシピを読んでいて、これは、中国料理でいうところの「老麺」はないか(!)と思いました。中国の古典レシピでは、アルカリとして重曹の代わりにかんすいが使われたりしますが、理屈は同じです。

インスタントのイースト菌を使わず老麺で仕込むと、独特の風味で美味しいのです。
生地が「サワー」になる前に、エサになる小麦粉を継ぎ足し継ぎ足し繋いでいくので「生き物を飼っている」という感じ。種菌の管理は結構大変です。私は「エサ」の小麦粉補充にギブアップして、数週間でやめてしまいました。

以前イギリスで、重曹が使われた醗酵パンを食べ、アルカリの刺激にちょっと驚いたことがあります。でもパン作りのこんなルーツがあることを知ると、イギリスでは重曹を加えることへの抵抗感が少ないのかもしれないと、少し寛大に受けとめられます。
やっぱりパンは、菌のチカラだけでゆったり醗酵させて欲しいですけどね〜)))。

さて、ほんの「枕」のつもりが、メイントークになってしまいました。
「主食談」はこれぐらいにして、次回は、オーブンについて少し語りたいと思います。

<つづく>

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