2020年4月24日金曜日

パンデミック エピデミック(9)ファッションと疫病

イザベラ・デステ: 画像は Wikiから拝借m(_ _)m

イザベラ・デステ(伊/ Isabella d'Este /1474~1539)。
多くの芸術家を庇護し、イタリア・ルネッサンスを牽引した知的で高潔な女性。

14世紀のペスト・パンデミックで、これまで救いであるはずだった教会の無力さを目の当たりにした人々の価値観は、大きく変わりました。表現にも、絵画のモチーフとなる対象にも、大きな変化が起こります。
東洋がどこか足踏み状態の時代、ペストを乗り越えたヨーロッパでは、芸術の消費が盛んになっていました。

「疫病 は人を選ばない」。

コロナ蔓延の今、専門家の口からも聞かれるこの言葉が、この時代もリフレインしていたことでしょう。

今日はイザベラ・デステの活躍談ではなく、この肖像画に描かれている彼女の服飾について。左肩から斜めに身に付けている貂の毛皮。
実はこれ、ノミ除け効果を狙ってのものだったのだそう(!)。
14世紀にヨーロッパ中を襲ったペストは、ノミを媒介に広まった疫病。
故、その後のヨーロッパでは、ノミを自分に寄せ付けない為にドレスに毛皮をあしらったり、肩掛けを身に付けたりするファッションが流行したらしいのです。いわゆる「ノミ・ホイホイ」。
あの、ロココのふっくらドレスの裾にダニ取りを引っかけていたというのも衝撃的でしたが・・・いやはや。。。。

そうこうしていると、時代は宗教が支配する世界から絶対王政へーーー。
植民地を求めて大航海時代へ。
そして、次の疫病「梅毒」の到来です。

コロンブスは、天然痘や麻疹などを新大陸に持ち込み先住民に壊滅的な被害(アステカ文明はこれで滅びます!)をもたらしましたが、"おみやげ" も持ち帰ったのですよ。
カリブ海サンサルバドル島かハイチあたりから持ち帰ったとされています。
コロンブスに象徴される冒険家たちが16世紀以降、南米アマゾンなどから、旧大陸には免役のない新たな菌を持ち帰ることになるのです。

その話の詳細はさておき、今日はファッションへの影響についてでした。

マリリンモンローのイブニングドレス。オークションで5億3千万円の値がついた。
https://cinefil.tokyo/_ct/17014542

写真は、マリリンモンローが、JFKことケネディ大統領の45歳の誕生日に「ハッピーバースデー・ミスター・プレジデント」を歌ったとき着ていたイブニングドレスです。

背中がガッポリ開いたドレスは、なんと「梅毒に掛かっていませんよ〜」という証しに肌を見せていたのが始まりなのだとか(!)。[「続・人類と感染症の歴史」より]
梅毒は、他の多くの疫病とは異なり、感染してからのプロセスが長く、感染してから約3週間の潜伏期間を経て局部にしこりが出来(第1期)、一旦病状が消えて3〜12週間後に皮膚い紅斑が生じる(第2期)。その後長〜い無症状期を経て第3、第4期へと移る病気ですが、この第2期のバラ疹が出ていませんよということのアピールなのです。
イブニングドレスの流行は、19世紀に入ってから(?)のようですが、世界がグッと近くなった16世紀以降、この病もずっと居座り続けていたのです。

画像はアデランスのサイトから拝借しました m(_ _)m
さらに、ヨーロッパでのカツラの流行の陰には、ペストと梅毒両方の対策があったといいます。

最初は、ペスト菌を媒介するノミを防ぐために短髪にしたことから始まったカツラの着用ですが、梅毒が蔓延時代になると、その症状のひとつである円形脱毛症(感染して約5カ月頃に起こる)を隠すものとして利用されるようになったのでした(!)。


これからは、ゴージャスなドレス姿や男性のロン毛(カツラ)を見る目が少し変わりそうです(苦笑)。

まだポストコロナのことを考える余裕などとてもあり得ない昨今ですが、今ユニークなマスクが沢山生み出されています。私のお気に入りは、手ぬぐいから作るマスク。
着物のように、どこの柄をどう見せるか。そんなところもセンスの見せ所。
これからマスクが益々身近な装備品になることでしょうけれど、これはファッションとして定着しないような?? いや、その前になんとしても終息させねば!




※エリザベス1世のこの赤毛、実はカツラです。彼女の場合はペスト対策ではなく、天然痘に掛かった瘡の後を隠す為だったようです。ちなみに、どこか違和感があるほどの白い顔も、瘡を隠すためのおしろいでした。(写真ではなく肖像画の時代は、いくらでも隠せますね。)




「人間は、社会動物です / Human being is a social animal」。

これも今、社会的距離(social distance) の話の時によく聞かれる言葉ですが、命の危険にさらされることが分かっていても、人間は接触し交わり、コミュニケーションがやめられない生き物なのです。
もちろん、中世や大航海時代の頃はまだ菌やウイルスの正体は分かっていなかったので瞬く間に広がってしまった訳ですが、それにしても、梅毒が、コロンブスの新大陸発見から僅か20年で、ポルトガルの種子島漂着(1543年)より先に、大陸経由で日本にまで到達していたという事実には、とにかく驚きです。

そして!
目下のコロナ、COVID-19。
グローバル化した世界に未だかつてないスピードで瞬く間に広がりました。
しかも、なんとも賢いウイルス(ウイルスに脳はないおろか生物としても不完全な存在なのだけれど!)で、私達の大切なコミュニケーションの部分に、新たな形でかかってきたではないか(!!)。脳が、心がある生命体であるが故に辛い〜)))
でも、脳があるからこそ、ウイルスに賢く対処出来るはず。

人間は、社会動物。そして愛と自由を求める生き物。閉じ込められると反発し、どうしても外へ出ようとしてしまう。
その本能をじっと押し殺して耐えるのは、本当に大変なストレスではありますが、今はしばし、がまん、がまん。 
そして、嗚呼、やっぱり人間は、社会動物。

「感染症は社会で越える」のだ。

皆で一斉に取り組むことで、押さえ込みを可能にする。パンデミック終息の要もまた、ここにあるのではないでしょうか。


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