2020年7月23日木曜日

「人体 v.s.ウイルス」

7/12のNHKスペシャル
山中伸弥とタモリの「人体」シリーズ特別版です。

「生きてるだけで 丸儲け」は、明石家さんまの座右の銘だったっけ。
大昔、「ま、命までは取られないさ」と慰められたことがあった。(その時は、あまり慰めにはならなかったけどw)

人は往々にして、なんとなく寿命まで生きるのだろうな〜と思っているけれど、それは平和ボケ、安全ボケの極みなのかもしれない。
生まれてきたことも、また天寿を全うすることも、すごいラッキーが重なって成り立っていること。まさにさんまさんのおっしゃるとおり!ってこと。

番組では、5億年前のウイルスと人類以前の生命体の関係性にまで遡り、変化の推移を追って、現在の新型コロナと私達の人体の免疫ネットワークを紐解いていきます。

どうしたら、この命を全うできるのかーーー。
できる限り命を全うできるようにと、体はいろんな仕組みを備えている。
その仕組みは、どのようにして作り上げられたのか。
また、どこまで新型コロナウイルスに有効なのか。

そこに迫るには、なんと人間以前の生物の進化の過程を探ることになるのです。
遠いご先祖さんである生命体は、5億年前のカンブリア期からウイルスと向き合ってきており、人になる進化の過程で、実はウイルスを利用したりされたりしながら、そのしくみを取り込んで進化の原動力にしてきたという事実がある。

例えば精子と卵子の受精のメカニズム。これは、ウイルスが細胞に侵入する瞬間と同じ原理で、太古に取り込んだウイルスの遺伝子がなせるわざなのではないかと考えられているそう。また、脳の長期記憶のしくみにも同様の原理が働いていると考えられるのだ。

気の遠くなるような年月を経て、人間の免疫もウイルスも、互いに切磋琢磨して進化してきた。そして、ここへ来て戦いは激化。新型コロナ、COVID−19との戦いは、いよいよ「進化上の頂上決戦」ということのようです。

本来、私達の体内にあるミクロの防御は、何重にも網を張りウイルスを撃退するような仕組みをもっているけれど、新型コロナウイルスもまた、それをすり抜ける為の驚異的な能力をを身に付けているようなのです。しかも、世界各地で器用にその特徴を微妙に変化させたりしている。知れば知るほど手強いウイルスです。。。。

GO-TOキャンペーンもはじまり、経済活動も回していかなくてはならない状況下で、これからもいろいろな判断が迫られる機会がふえてくることでしょう。お上の導きも釈然としない中、今私達にできることは・・・?

まずは「私達が向き合っているウイルスは、こういうヤツなのだよ」と、認識をUP-DATE しておくことが肝要かと思う次第です。

以下、番組より、ウイルスと人体の攻防のシステムについてまとめてみました。
*添付の画像は、テレビ画面をデジカメで撮ったものです。

攻防の入り口:線毛

ウイルスは、異物です。
人間の[口][鼻]などから侵入してきますが、まず[気道]の線毛が、細かな動きで異物であるウイルスを、外へ外へと押し戻そうとします。

それをすり抜け、ウイルスが 肺 に到達したら・・・
ウイルスは、肺の細胞表面にある突起(本来は、栄養などの必要な物質を細胞に取り込むための鍵穴のようなもの)に、ウイルスの棘(この棘部分を"コロナ(=王冠の意)"とよぶ)を結合させ、細胞の中にもぐり込みます。
ウイルスは、偽の鍵(その棘=コロナ)を使い「栄養ですから受け入れてね—」と騙して侵入するのだ。

細胞に入り込ませてしまった状態が「感染」。

 ウイルスの狡猾な手口その1:偽の鍵=突起 コロナ” を持ち侵入

偽の鍵で細胞内に取り込まれようとしている新型コロナウイルスの図
細胞に入り込んだ新型コロナウイルス

肺の細胞に入り込んだウイルスは、次々と増殖を始めます(肺の細胞が次々犯されて、肺炎を起こします。レントゲンには、犯されている範囲が白い陰に写る)。

が、人体には、次の砦が用意されています。

体内の攻防その1:「自然免疫」 
         警報物質インターフェロン〜防衛隊” 免疫細胞(食細胞)の発動

ウイルスに乗っ取られた細胞は「敵がきたぞ〜!」と知らせる警報物質「インターフェロン」を放出します。*インターフェロン:異物の侵入に反応して細胞が分泌する蛋白質。
インターフェロンは、血流に乗って、全身の免疫細胞(食細胞)にメッセージを伝えるのです。免疫細胞(食細胞)は、メッセージを受け取ると、血管から外に出て移動を開始。感染が起きている現場へ急行し、ウイルスを丸呑みしていきます。



この警報〜食細胞の出動システムが、生まれつき持っている「自然免疫」というものです。

感染しても、無症状の人は、体内で食細胞が大活躍している=この自然免疫がしっかり仕事している人ということになります。

*食細胞(好中球):マクロファージ。アメーバのような白血球の一種。死んだ細胞や細胞の破片、または体内に生じた変性物質や侵入した細菌、ウイルスなどの異物を飲み込む掃除屋的役割を担う。

しかーし!
新型コロナウイルスは、この自然免疫をすり抜けてしまう驚きの能力を持っている可能性が!!(東大医科学研究所・佐藤 佳  准教授)

ウイルスの狡猾な手口その2:遺伝子情報 ORF3b


膜の内側の核には遺伝子RNAが


それは、ウイルス核内にある特別な遺伝子ORF3bが、自然免疫を欺くというもの。
遺伝子ORF3bが 働くと、警報物質が作られる量が10分の1に押さえ込まれてしまうのだ(!)すると、食細胞に警報が行き渡らず、十分に出動しないため「ウイルスの増力>食細胞の活動」となり、感染が広がっていく。
警報物質が出ず、食細胞の出動が阻まれている、そのもたついている数日が、いわゆる「症状が出てない状態でも感染する」あるいは「見せかけの無症状」の期間なのだということが、わかってきました。警報物質が出ていないので、この時感染しているのに発熱はありません。



警報が出ない場合、ウイルスは、2日で1万倍にも増殖し、急な重症化となります。
実際、重症化した人は、著しく警報物質インターフェロンの産出量が低くなっており、体内でこの現象が起きていたと考えられます。

世界中の新型コロナウイルスの遺伝子* ORF3b を調査した結果、エクアドルなど、ホットスポットとよばれる地域での検体では、警報物質が20分の1だったという報告もあるのだそう(!)。
また、新型コロナウイルスの遺伝子情報ORF3b は、昨今、より強力に変化してきていることが分かってきたそうです。
*ウイルスには脳も細胞も無いけれど、遺伝子を持ち、他の細胞を利用して増殖する。

新型コロナは、警報を隠す手を何重にも持っていそうで、「ここが当に研究対象」と、中山教授。

それでも人体は、まだ頑張るんです。第2の防衛隊が立ち上がります。

体内の攻防その2:獲得免疫 
         キラーT細胞 & B細胞 の出動

伝令役の食細胞(樹状細胞)が移動して行って戦い、その時に飲み込んだウイルスの断片を、別の免疫細胞に差し出すと、それが翼を付け、キラーT細胞に変化するのです。

キラーT細胞は、感染した細胞に取り付き、学んだウイルス情報と一致すれば攻撃を開始します。攻撃を受けた細胞は、ウイルスもろともバラバラに。


食細胞(樹状細胞)
食細胞(樹状細胞)が別の免疫細胞に飲み込んだ
ウイルスの断片を差し出しウイルスの情報を伝える。
免疫細胞、キラーTへ変〜身!
感染した細胞に取り付くキラーT細胞

感染した細胞が差し出すウイルスの断片をキラーT細胞がキャッチし、
情報が一致したら、破壊攻撃開始!

しかーし!!
このキラーT細胞をも退ける、特殊能力を・・・身に付けている新型コロナ!!

ウイルスの狡猾な手口その2:ウイルスのサインである突起を分解

キラー細胞が狙うのは、あの取っ手。感染しているサインになるあの突起(手)を、表面に出る前に分解して、迫り来るキラーT細胞をかわしてしまうのです!!


キラーT細胞は、ウイルスの断片に触れて敵であることを認識するのですから、突起がなければ、ウイルスが潜む細胞を見つけることが出来ないのです。

そこで、更なる部隊が投入されます。

免疫細胞B細胞、抗体を放出!!

B細胞も、ウイルスの断片に触れて情報を入手します。そして、強力な、Y字型のトビ道具(抗体)を放出し、偽モノの“鍵”に取り付いていきます。
ウイルスは細胞に侵入出来ず、よって増殖出来なくなるのです。




ウイルスに“トビ道具”を引っかけ細胞に進入できなくし・・・
浮遊しているところを、食細胞がパックリと飲み込んで撃退
これらキラーT細胞やB細胞は、その後も、ウイルスの情報を保ったまま、体内で待機し続けます。

獲得免疫は、ウイルスの記憶によってウイルスを探し当て、撃退するのです。

私達の体には、40種以上のいろいろな免疫細胞があり、それぞれが「免疫ネットワーク」でウイルスと対峙しているのだといいます。

※実はこの番組で、私がひとつ釈然としなかったところがありました。
B細胞もキラーT細胞同様、ウイルスの断片(取っ手)に触れてウイルスを認識するということですが、取っ手が出ないようにする能力を持ったウイルスに、どうやってB細胞は触れることが出来るのでしょう?
全部が全部できるわけではないのか、あるいはキラーT細胞に対してのみ取っ手を分解するのか・・??
ま、ウイルス学者じゃないから、ここはとりあえずスルーしておこう

要するに、自然免疫での攻防と、獲得免疫での攻防とで(まだ紹介されなかったものもあるのかもしれないけれど)ウイルスに対峙する形となっているということ。

B細胞が生み出す飛び道具(抗体)の形は、病原体によって違っています。
例えば、アフリカにはマラリア原虫の病原多の形に、南米ではライ病の形に合致するトビ道具を持っている人が多いので、現地の人はほとんど感染しません。

今、このトビ道具である抗体や免疫細胞を培養する研究が進められているのだそうです。
山中教授の分野でもIPS細胞などを使い、抗体を実験室で作り出せないか・・・ということも研究が進められているとか。


山中教授の「私達が打ち勝てないはずはない」と、極めてポジティブな見解には、大いに励まされるところですが、ざっとこの「免疫 v.s.ウイルス」の仕組みを見せつけられると、それが決して簡単ではないことは明らかです。
なんといっても「進化上の頂上決戦」なのですから。

番組終盤で、サイトカインストームという免疫の暴走が起こり、免疫が過剰に活性化するこわいケースが紹介されていました。 キラーT細胞が感染細胞を攻撃する際、自爆行為をし丸ごとネバネバを出します(写真の緑部分)。その細胞の死骸や赤血球など血液成分などをネバネバに絡めて巻き込んで血栓ができてしまい「肺血栓塞栓症」という病気に至るとか。急に重症化した患者によく見られる現象なのだそうです。



「なめたらいかんウイルスである」と、この番組を見て、改めて心した次第です。


製薬会社が進めるワクチンも希望ではありますが、まだまだ不確かなことが多いようですし、何と言っても、新型コロナウイルスの遺伝子は、変化しやすいRNA型ですから、現段階のウイルスに対してのワクチンが出来たとしても、それをかわす術をもったものが生まれてくるかも知れず、いたちごっこが続くこともあるのではないかしら?と、素人考えですが思ってしまいます。

いろいろ暮らしの中での制約は続きますが、さんまさんの「生きてるだけで 大もうけ」。そんな気分で、出来ないことに執着せず、出来る事を楽しみながら過ごしていきたいなあ。

<おさらいと補足>
※免疫のシステムは、ここで紹介された限りではないし、もっと複雑でまだ判っていないことが多々あることを前提に、番組ではシンプルにまとめてありました。
以下、相談した薬剤師さんのお話なども参照しながら、語彙の解説をまとめてみました。

①自然免疫:
 警察官のように、日夜全身をパトロール。侵入してきたウイルスを見つけると、食細胞(マクロファージ)がその場で撃退します。
 現場で取り押さえるので、発動が早く、数分〜数時間で処理。 
 症状が無いまま治っていきます。

②獲得免疫:
 パトロールで警官が察知した危機情報を得た国防軍(リンパ球)がウイルスを特定。特定ウイルス(コロナ)だと判断すると、国防軍から密命を受けた殺し屋部隊「キラーT細胞」がウイルス感染した細胞を、細胞ごと殺しにかかります。
発動まで、情報処理の為、1週間近く掛かります。
故に体は、既に発熱や咳などの症状が出ています。

③キラーT細胞(キラーTリンパ球)&B細胞:
リンパ球の一種で免疫を担う重要な細胞。リンパ球の20~30%を占め、骨髄で生み出される。

④抗体(トビ道具)を作り出す免疫細胞。


 *抗体検査:過去の検査歴を調べるものですが、感染8週間後で軽傷者の4割、重傷者の2割で抗体が検出不可能なほど減ることがわかってきている。
これは「抗体の保持率≠治った割合」とは言えないことを意味します。

*免疫とは、多種の細胞の共同作業で成り立っている。
 例えば血液中の白血球も、免疫系を担当している細胞のひとつ。
 白血球には、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞などの
 「リンパ球」、好中球やマクロファージといった「食細胞」、樹状細胞などのリンパ球
 に抗原を提示する「抗原提示細胞」などを含みます。

白血球内の免疫細胞 その他
※免疫細胞は、この限りではない

*http://www.pf.chiba-u.ac.jp/medemiru/me13.htmlより借用した図です

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